エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-XVI-6

2021-11-25 11:31:29 | 危機一髪

「あら、あなただったの!」とマダム・フェライユールは言った。

「見つけてきました……考えていた住処です」

「どこなの?」

「ああ、残念ながらかなり遠くです……僕たちの良く知っている人たちから何里も離れた場所です……人通りも殆どないところで反乱の道(ベルサイユからサンドニ、コンピエーニュまでの道。1750年、子供が警察に連行されたのに怒った母親の呼びかけで暴動が起き、当時の国王ルイ15世が住んでいたベルサイユから娘のいるサン・ドニまで行くのにパリを避けてこの道を通ったことからこの名で呼ばれるようになった)沿いの一角で、アズニエール通りと交差する地点の近くです……お母さんには住み心地が悪いかもしれませんが、とても小さな庭があるので少しは慰められるかと……」

フェライユール夫人は気力を振り絞って立ち上がった。

「住むところなんてどこでも構いませんとも!」と彼女は遮って言った。そしてちょっと無理をした感のある陽気さで付け加えた。「そこに長く居ることにはならないでしょうし……」

しかし息子の方は、この楽観的見通しにはとても同調できないというように悄然と黙したままだった。母は普段の息子の表情を知り尽くしているので、彼の眼の中に新たな心配の色を見て取った。

「どうしたの?」彼女は自分でも不安が抑えきれなくなり尋ねた。「何があったの?」

「それが……大変なんです」

「今度は何だって言うの?」

「僕はクールセル通りまで行ってきたんです。マダム・レオンと話をしに……」

「で、彼女は何て?」

「ド・シャルース伯爵が今朝亡くなったと……」

フェライユール夫人はふうっと息を吐いた。彼女は全く別のことを予想していたのだ。この人物の死がどういう意味を持つのか、彼女には与り知らぬことだった。しかし今彼女が大いに気を揉んでいたのは、百人もの人がひっきりなしに通るこの待合室で、こんな立ち話をしていることこそとんでもない軽率さであり大きな危険を招く行為だということであった。彼女は息子の腕を引っ張りながら言った。

「さぁ、ここから出ましょう……」

パスカルは乗って来た馬車を待たせていた。御者に彼らの新しい住所を告げると、母を先に乗せ、自分も後から乗り込んだ。11.25

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