エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-III-17

2022-10-04 10:18:05 | 地獄の生活

「ええ、ええ、いつも同じことですよ、男爵」と彼は答えた。「今朝はまだカードに手を触れておられないので、手がムズムズなさっているのではないですか……お時間を取らせてしまって申し訳ないですが、今お話ししたのは前置きでして……」

「え、単なる前置きだったと?」

「ええ、さようです。ご安心ください、それはもう終わりで本題に入ります……」

トリゴー男爵が八十万リーブルの年利収入を得ていることはよく知られていたので、彼は平均して一年に百万フラン以上の援助や借金の申し込みを受けていた。というわけで、その手の依頼を嗅ぎ分けることにかけては彼の右に出る者はいなかった。

「ああ勘弁してくれよ」と彼は思っていた。「ヴァロルセイは俺に金をねだりに来たのか」

確かにヴァロルセイ侯爵のいつもの鷹揚さの奥に、ある種の気まずさが感じられ、彼は言葉を探して言い淀んでいるように見えた。

「申し上げましたように、私は結婚いたします」と彼は言った。「独身生活ともおさらばして、素行を改めます。ということはですね、男爵、自分の身辺整理をしなければなりません……。コルベイユ(婚姻契約書を交わす際、花婿から花嫁に送るバスケットで、中にはカシミアのショールや金糸の刺繡を施したハンカチなど、通常持参金の一割相当の贈り物が入れられた)と二度の披露の宴を計画しています。それにド・ヴァロルセイ城の修理、妻との旅行と……それらすべてを合わせると目の玉が飛び出るような金額になります」

「目の玉が飛び出る、ふむ、そう言いますな」

「それでですね、持参金持ちの娘と結婚する場合とは違い、私は多少手持ちが不足するのではないかと……。それで心苦しいのですが、貴殿のことを考えたわけでして……。あの男爵なら常に自由になる金をお持ちだ。あの方なら一年間五千ルイをお貸し頂けるのではないかと思ったわけで……」

男爵の目はじっと侯爵に注がれ微動だにしなかった。

「これはしたり!」と彼はいかにも遺憾であるという口調で言った。「つまりその、私には持ち合わせがありませんでな」

侯爵の顔に浮かんだのは失望というようなものではなかった。激しい絶望の色が浮かんだが、すぐに彼はそれを覆い隠した。しかし男爵はそれを見ていた。カードゲームの際、親が仕掛けた罠に対する反応を見るときと同じように的確に見て取った。何も勘づかれないようにしながら、親は相手が何を是非とも必要としているかを判断するのである。男爵はド・ヴァロルセイ侯爵がすっかり破産状態なのであると見抜いた。しかし、断ることは彼の意図ではなかったので、急いで付け加えた。

「私が持ち合わせがないと言いましたのは、現在手元にない、ということなのです。ですが、四十八時間以内に用立てられます。もしよろしければ、明後日、今ぐらいの時間に私の代理人をお宅に行かせます。その者と条件などついて取り決めてください」10.4

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