エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-III-16

2022-10-02 10:23:13 | 地獄の生活

カンヌまで逃げて行きましたが、彼女はその後を追いかけました。何か月間か分かりませんが、彼はイタリア各地を偽名で転々としたようですが、無駄な努力に終わりました。とうとうどこか地方の修道院に娘を入れなければならなかったのです……。ですが、亡くなる前の数か月は平安な日々を過ごせたようです。つまり、それは金で買った平和でした。その女の夫は金に困っていたか、吝嗇かのどちらかでした。ところが彼女の方は気が狂ったように浪費をする人間だったのです。ド・シャルース氏は相当な額の手当てを彼女に与え、衣装代も支払っていたのでした」

男爵はバネ仕掛けのようにパッと立ち上がった。これ以上耐えられなかったのである。

「なんという女だ!」と彼は呻いた。しかし彼はすぐに座り直した。この思わず発せられた言葉はド・ヴァロルセイ氏を驚かせることもなく、彼は穏やかな口調で締めくくった。

「というわけですよ、男爵。これで私の愛するマルグリット、未来のド・ヴァロルセイ侯爵夫人が千フランの持参金も持っていないことがお分かりでしょう」

男爵は喫煙室のドアの方に苦渋に満ちた視線を走らせた。何かが動く気配を感じたのだ。今にも怒りと嫉妬に我を忘れたパスカルが入って来て侯爵に掴みかかるのではないかと、彼は恐れた。これ以上、この危険な状態を続けるわけには行かない、と彼は判断した。彼自身、本心を隠し続けるのはもう限界だと感じていた。なので、ド・ヴァロルセイ氏にはもっと尋ねるべきことがあったが、それは別の機会に譲ることにして、彼は突然侯爵の打ち明け話を遮った。

「いや正直に申しまして」と彼は無理に笑い声を立てながら言った。「もっと別の話になるかと思っておりましたよ。恋物語のように始まったかと思ったら、結局は平凡で現実的な話に終わるのですね。つまり、金、ですな。ああ、結婚している女たちは幸せだ!男たちを夢中にさせ、挙句の果てにピストル自殺せねばならないような羽目に陥らせる。そのやり口ときたら、どんなあばずれにも負けない!」

億万長者として、また無類の博打打ちとして知られるトリゴー男爵は、何を言っても許されるというところがあった。こういう男たちは憚るところのない暴言を放ち、育ちが悪く、皮肉屋で恥知らずであることを自ら公言し、それは自分の罪ではないから、自分はこういう男なのだと受け取って貰いたいと言うのだった。そして世間の方でも、愚かにも「こういう男」と受け入れるのであった。

しかし、今の彼の暴言にはなにか非常に不快にさせるものがあったので、他の場合ならば侯爵は立腹したところであったろう。しかし彼には下手に出なければならない理由があったため、笑って受け流すことにした。10.2

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