エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-VIII-14

2023-08-01 12:28:50 | 地獄の生活
そうこうしている間に助手が機具を持って戻って来たので、彼はその機具を小サロンの中で組み立て設置した。準備がすべて整うと彼は言った。
「ではそのお手紙をお渡しくださいますか、マダム」
一瞬の戸惑いが感じられた。しかしそれはほんの一秒ほどのものだった。この写真家の誠実で親切な顔つきから、彼は信頼を裏切ることはないだろうと彼女は確信した。この人ならむしろ自分に力添えをし、救ってくれるであろう、と。彼女はド・ヴァロルセイ侯爵の手紙を悲痛な威厳を持って差し出し、はっきりした口調で言った。
「貴方様の手に託しますのは、私の名誉と未来でございます……。でも私には不安はありません。何も怖れてはおりません」
写真家はマルグリット嬢が何を考えているのかが分かった。秘密にしておいてくれ、と敢えて口にしなかったこと、それは不必要だと彼女が判断したということを……。彼の心に同情心が湧き起こり、最後の懸念が消し飛んだ。
「私はこの手紙を読ませていただくことになります」と彼は言った。「ですが、それは私一人だけであることを誓ってお約束いたします。私以外の誰もこれを目にすることはありません」
胸が一杯になり、マルグリット嬢は手を差し、写真家はそれを握りしめたが、彼女の言葉は素朴なものだった。
「感謝します……二重に御親切を受けましたわ……」
手紙の完全な複写を作成するには高度の技術が必要で、ときにかなりの時間を要する。しかし二十分ほど後に、素晴らしい出来栄えを保証する二枚のネガを写真家は手にすることが出来た。彼は満足げにそれらを点検した後、手紙をマルグリット嬢に返した。
「三日後には写真が出来上がっております、マダム、住所をお教えくださればお送りすることも出来ますが……」
この言葉に飛び上がったマルグリット嬢は急いで答えた。
「いえ、どうか送らないでくださいまし。お手元に保管しておいてください。ああどうか厳重にお願いします。誰かに見られたらおしまいですから……私が自分で取りに伺います。それか誰か人を寄こしますので……」
それから、こんなにして貰った信頼に応えねばと思い、付け加えた。
「でも、おいとまする前に名前だけは明かしておきます……私はマルグリット・ド・シャルースです」
そして彼女は出て行った。後には、今起きた出来事の意外さと彼女の美しさに幻惑された写真家が残された。8.1
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