エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-VIII-17

2023-08-11 15:01:09 | 地獄の生活
幸いにも味方と頼れる人が一人いた。あの老治安判事である……。彼に相談しようかと考えたことは今までもあった。彼女のこれまでの行動はそのときどきの状況に応じてなんとか切り抜けてきたものだった。が、事態の進展の速さを考えると、状況を制御するには自分よりもっと人生経験を積んだ人が必要だと感じていた。
今彼女は一人なので、スパイされる恐れはない。この時間を利用しないのは愚かなことだ。彼女は旅行鞄から筆記用具を取り出し、不意に誰かが入って来ることのないようドアにバリケードをし、治安判事に宛てて手紙を書き始めた。最後に会ったときから起きた出来事の数々を、稀に見る正確さで、細部に亘り省略することなく、すべてを彼女は記した。そしてド・ヴァロルセイ侯爵からの手紙の中味を再現し、何か不測の事態が生じたときには写真家のカラジャット氏のもとに行き、証拠を受け取れるよう詳しい場所も書き添えた……。
手紙は書き終わったが、彼女はまだ封をしなかった。
「もしこの手紙を投函する前に私に何かあったら」と彼女は考えた。「それに備えて、付け加えておかなければ」
その間彼女は可能な限り急いでいた。今にもフォンデージ夫人とマダム・レオンが帰ってくる物音が聞こえるのではないかとびくびくしながら……。
しかし実際は、それは杞憂だった。二人の『掘り出し物漁り』の女性たちが、自分たちの言うところの大仕事を終え、疲れながらも喜びに顔を輝かせて戻ってきたのは六時に近い頃だった。例の衣装を整えるのに必要な物はすべて買い揃え、『将軍夫人』はそれ以外にも滅多にないほどの美しいレースを『お買い得品』の中に見つけ、あろうことか、それを四千フランで買ったというのである。
「こんな機会を逃す手はないわ」と彼女は買った品物を陳列しながら言った。「それに、レースというのはダイヤモンドみたいなものなのよ。出来るだけたくさん買っておくのが賢いの……価値がなくなることがないんだから。こういうのは出費じゃなくて、投資なのよ」
巧みな理屈である。このようにして高い支払いをさせられる夫は一人ではない。
マダム・レオンの方は『大事なお嬢様』に一着の素晴らしい既製服を誇らしげに見せた。フォンデージ夫人からのプレゼントだというのだ!
「おやおや」とマルグリット嬢は思った。「この家ではお金はもう問題じゃないというわけね!」8.11
コメント