マルグリット嬢がフォンデージ邸を出てから一時間超が経っていた。
「ときが経つのってほんとに早いのね!」と彼女は呟いていた。人目を引かぬ範囲内で最大限に足を速めながら。それでも、いかに急いでいたとはいえ、ノートルダム・ド・ロレット通りの裁縫材料店に立ち寄り、五分ほどを費やさねばならなかった。黒いリボンやその他の喪のしるしの小物を買うためである。召使の誰かが出て来て外出の理由を聞かれることがあった場合に備え、説明できるように、であった。そういうこともないとは言えず、むしろありそうなことであった。あらゆる可能性を彼女は考えていた。
しかし、『将軍』邸の前の階段を上がり、門の呼び鈴を鳴らしたときは緊張のあまり鼓動が胸を突き破りそうになった。この彼女の計画と冒険が成功するか否かは、彼女の行為とは無関係な外的要因に依存しており、それに対して知恵では対抗できないからだ。
フォンデージ夫人とマダム・レオンが既に帰宅していて、手紙を持ち出したことがばれていたとしたら!
しかし幸いなことに、『将軍夫人』が思い描いているような衣装のための材料を買い揃えるには一時間では足りなかった。二人の婦人はまだ帰宅しておらず、家の中は彼女が出て行ったときのままだった……。彼女は手紙を引き出しに戻し、鍵をかけ、マダム・レオンの服のポケットに鍵を戻しておいた。
このときになって初めて彼女は安堵の息を吐き、この一週間で初めて喜びの感情が湧き上がるのを感じた。もうこれでド・ヴァロルセイ侯爵に気づかれることなく、彼女は彼を牛耳ることができる……。彼がどんな狡猾な策略で彼女を窮地に陥れ、その後彼女を救い出すという筋書きを立てようと、もう彼を怖れることはないのだ……。
彼は翌日あの手紙を焼却し、悪だくみの証拠はすべて消滅したと思うだろう。ところがどっこい、侯爵が勝利を手にしたと思うお定まりの瞬間に、自分がこの手紙の複写を取り出し、敵を粉砕するのだ。この輝かしい奸策をやってのけたのは単なる小娘、この自分なのだ!
「これで少しはパスカルにふさわしい女になれたかしら」 彼女はちょっぴり自慢に思う気持ちに心が揺れながら独り言を言った。
しかしマルグリット嬢は運命の女神が一度微笑んでくれたからといって頂天になるような弱い人間ではなく、軽率にも最初の成功で油断してしまうことはなかった。8.4
「ときが経つのってほんとに早いのね!」と彼女は呟いていた。人目を引かぬ範囲内で最大限に足を速めながら。それでも、いかに急いでいたとはいえ、ノートルダム・ド・ロレット通りの裁縫材料店に立ち寄り、五分ほどを費やさねばならなかった。黒いリボンやその他の喪のしるしの小物を買うためである。召使の誰かが出て来て外出の理由を聞かれることがあった場合に備え、説明できるように、であった。そういうこともないとは言えず、むしろありそうなことであった。あらゆる可能性を彼女は考えていた。
しかし、『将軍』邸の前の階段を上がり、門の呼び鈴を鳴らしたときは緊張のあまり鼓動が胸を突き破りそうになった。この彼女の計画と冒険が成功するか否かは、彼女の行為とは無関係な外的要因に依存しており、それに対して知恵では対抗できないからだ。
フォンデージ夫人とマダム・レオンが既に帰宅していて、手紙を持ち出したことがばれていたとしたら!
しかし幸いなことに、『将軍夫人』が思い描いているような衣装のための材料を買い揃えるには一時間では足りなかった。二人の婦人はまだ帰宅しておらず、家の中は彼女が出て行ったときのままだった……。彼女は手紙を引き出しに戻し、鍵をかけ、マダム・レオンの服のポケットに鍵を戻しておいた。
このときになって初めて彼女は安堵の息を吐き、この一週間で初めて喜びの感情が湧き上がるのを感じた。もうこれでド・ヴァロルセイ侯爵に気づかれることなく、彼女は彼を牛耳ることができる……。彼がどんな狡猾な策略で彼女を窮地に陥れ、その後彼女を救い出すという筋書きを立てようと、もう彼を怖れることはないのだ……。
彼は翌日あの手紙を焼却し、悪だくみの証拠はすべて消滅したと思うだろう。ところがどっこい、侯爵が勝利を手にしたと思うお定まりの瞬間に、自分がこの手紙の複写を取り出し、敵を粉砕するのだ。この輝かしい奸策をやってのけたのは単なる小娘、この自分なのだ!
「これで少しはパスカルにふさわしい女になれたかしら」 彼女はちょっぴり自慢に思う気持ちに心が揺れながら独り言を言った。
しかしマルグリット嬢は運命の女神が一度微笑んでくれたからといって頂天になるような弱い人間ではなく、軽率にも最初の成功で油断してしまうことはなかった。8.4