テーブルの上には数本の殆ど手を付けられていないボトルがあった。そのことを指摘されるとウィルキーは肩をすくめた。
「俺を誰か他の奴と間違ってやしないか!」と彼は言い放った。「気の抜けたワインなんか飲まないんだよ、もうすぐ相続財産が舞い込んでくることが分かってる人間は……」
「ウィルキー、よせ!」ド・コラルトが急いで遮った。
しかし時すでに遅し。シュパンはちゃんと聞いており、理解した。彼がそうではないかと疑っていたことが確実なものとなった。ウィルキーは自分に相続の権利があることを知っていたのだ。フォルチュナ氏は子爵に先を越され、彼の苦労は単に骨折り損に終わったということだ。
「気の毒に」とシュパンは思った。「ド・ヴァロルセイの後にこれとはね!さぞかし悔しい思いをすることになるんだろうなぁ!」
シュパンは彼の年齢の青年にしては、自分の心のうちを外に漏らさぬ術を高度に身に着けていた。しかしこの発見はあまりに突然だったので思わず身体がびくっと震えるのを隠せなかった。顔色も少し蒼ざめたほどだった。ド・コラルト氏はこれを見、何を見抜かれたのか知る由もなかったが、それまで我慢していた怒りが爆発した。彼は出し抜けに立ち上がり、ボトルの一本を取り上げるとそこにあったグラスの一つを出鱈目に掴み、なみなみと注ぎ込んだ。
「さぁ、飲むんだ」と彼はシュパンに向かって言った。「さっさと。飲んだら行け!」
ヴィクトール・シュパンには改心して以来はっきりと変わったことがあった。猜疑心と感受性が鋭くなったのだ。しかし彼の性格では、自尊心を傷つけられたり不快な目に遭ってもカッとなって我を忘れることはなかった。ただ単にタメ口で呼びかけられること、あるいは手当たり次第にグラスを掴んで酒を飲めと勧められることぐらいでは。しかしド・コラルト氏には何か理由もなく説明もつかないある嫌悪感を掻き立てられるところがあり、我慢できなくなった。
「え、何だ何だ」と彼はぶっきらぼうに言った。「タメ口をきくとは、どこかでシャンパンを一緒に飲んだことがあったっけか?」
この言葉は、好意的に解釈すれば、単に粗野な冗談でしかないものだったが、ド・コラルト子爵には酷く癇に障ったようだった。
「ウィルキー、聞いてるか」彼は言った。「君の同郷人シーモア卿の古き良き時代は終わりを告げたんだということが、このことで分かったろう。昔は酒を飲んだ後貴族に殴られても平民は恭しくそれを受けたものだ。ところが今はどうだ、君が下賤の者なんかと付き合って浮かれたりするからこのざまだ。通りすがりのごろつきの誰にでも酒を振舞ったりするから……」3.26
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