◎クンダリーニのエネルギー・コードが中心太陽に突入する
中世錬金術書の哲学者の薔薇園の図版に『緑の獅子が太陽を食べる』イラストがある。
緑の獅子とは、ヘルメスの金属であって水銀(錬金術書逃げるアタランタの図版37)。つまり緑の獅子とは、クンダリーニのエネルギーコードのことである。よって『緑の獅子が太陽を食べる』とは、クンダリーニのエネルギー・コードが中心太陽に突入する寓意である。
種村季弘によれば、獅子の口は、死の口であり、再生のためには死に飛び込まねばならない(黒い錬金術/種村季弘P236)。
緑の獅子の獅子の口から血がしたたり大地に落ちているのは、再生の意図。インドでは、クンダリーニ・ヨーガは再生を展望しないが、西洋錬金術では再生もありなのだろうか。
C.G.ユングは、人間が穴に落ち熊に襲われる夢を材料に、『熊は龍や獅子と同様、第一質料(プリマ・マテリア)の危険な側面を表す(偽トマス・アクィナス『錬金術について』(1520年より))』とし、熊は黒化(ニグレド)であり、そこから孔雀の尾の華やかに“戯れ”溶け合う色が生ずると説明している(心理学と錬金術Ⅰ P252)。
要するに錬金術書では、熊や龍や獅子が、女性とからみあう図版が時々出てくるのは、ダイヤモンドなる大悟直前の黒化のシーンであると言っている。逃げるアタランタの最終図50枚目に女と龍がからむ絵が置かれているが、女も龍も共に死ぬとしており、それは、世界全体の死であって、第六身体の死。そして逃げるアタランタでは、なにもかもなしの第七身体ニルヴァーナの図版はないということになる。
さらにタロットカードのstrength力。これは、女魔術師が獅子の口をこじ開けている。タロットでは、魔術師は1番の男魔術師と11番力の女魔術師。無意識・死を扱うのは、男魔術師でも女魔術師でもよいが、本格的に繊細に人間的、個人的に扱えるのは女魔術師であることを示す。つまり女魔術師はクンダリーニ・ヨーガのシンボルであって、男魔術師は只管打坐のシンボルと見る。
11番力の女魔術師は、獅子に飲み込まれていない絵になっている。
『食らう者より食物出て
強き者より甘き者出でたり
―――士師記14:14』をサリー・ニコルズが引用(ユングとタロット―元型の旅 サリー ニコルズ 新思索社P326)しているが、これぞ個人と全体の逆転を示す。11番力の女魔術師は、逆転の始まりなのだ。