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じゃくる

2010-11-22 | 海軍
画像はジャクリーヌ・ケネディです。
何が何でも画像を挙げようとすると、こういう事態に陥るという見本のような今日のブログですが、表題と画像のこじつけは相変わらずのことなので御容赦ください。

画像についてはさらりとスルーして、今日のテーマ

「じゃくる」

です。

海軍ものを読んでいて「じゃく」という単語を
「若輩もののこと」
と理解している方もここには多くおられるかと思いますが、それが「じゃくる」という動詞になると、若干意味合いが変わってくるのだそうです。


突然私事になりますが、エリス中尉がこうやって海軍についてのあーちゃらこーちゃらをブログで書いている、ということを
「人より海軍に通じているから」
と思っていただいては困ります。

いやむしろ、その世界についてはおそらくこのブログに来てくださる方々の誰にも負けないくらい「じゃく」であることは分かる方には明明白白の冷や汗自転車操業知識を披露しているわけなのですが、
「詳しいから皆におしえてア ゲ ル 」
という高みに立つものではなく、むしろ

「今こんなことを勉強していてこんなことが分かったので聴いて下さいな」

という立ち位置だということをあらためて宣言させていただきたいのです。
んなことちょっと読めばわからいでか、という声も今聴こえた気がします。

それが証拠に、得た知識を
「こういう意味だろう」
と推測したままブログ内で使ってしまった言葉が全然違う意味だったりして

「あなたのブログにメールが届きました!」

という文字を見るたびに、文字通り心臓が早鐘のようにうち、震える手でクリックすると

「間違ってます」

というお知らせで

・・・・・・・・orz

となりつつも訂正をすること数度(ブログが訂正できる仕組みでなければ、とっくに崩壊しているかもしれません)。

しかし、間違えたら間違えたでそこで調べたことを元にまた知識が増えるので勉強させていただきつつ日々精進しているわけです。
それにしても、わざわざ貴重な時間を使って指摘をして下さる方がこの世界のどこかにいてくれる、というのは全く幸せなことだと思う次第です。
この場をお借りしてお礼を申し上げます。

私事というか前置きが長くなりましたが、今日の「じゃくる」は、以前善行章二本の下士官のことを「ゼンツー」というものだと思って書いた記事(に対する間違い指摘のメール)が発端です。

まず、善行章とは何か?を調べることから今回は始めました。

他の様々なことどもに同じく、この制度も英国直輸入です。
袖についている山形のラインがその「善行章」なのですが、これは特に善行を積んだから貰えるというものではなく、三年経つと誰でももらえました。

つまりそれによって表わされるのは海軍で何年飯を食っているか、ということのみ。

因みにこの善行章、本家英国ではV字型です。
というのもVery good のVを表わしているそうなのですが、日本海軍がなぜそれをそのまま輸入しなかったのは謎です。
「谷」より「山」の方がいいかんじ、とか言う理由だったりして。
しかし、英語圏であるアメリカ軍の袖章も山形なんですよね。
英軍と同じじゃ芸が無いからってひっくり返したら、日米がおそろいになってしまったってことですか?


おっと、また勝手な想像でものを言うと自動的に余計な間違いをしそうです。

特に善行を積まずとも貰えるものならそんなに有難味がなかったか、というとこれが違ったんですね。
「海軍の釜の飯を三年余計に食う」ということは、やはり付く「箔」の重みが俄然違ってくるもののようで、兵たちは階級章よりも善行章をどちらかというと誇りのよりどころにしていたといいます。

そこでエリス中尉がかつて勘違いしていた
「ゼンツー」
なのですが、これは善行章が二本すなわち六年たっても下士官になれずに一等兵のままでいる兵のこと
です。

ついでに、善行章が付くまで一等兵になれずに二等兵のままでいるつまり善行章を1本着けた二等兵である下士官兵を「楽長」と言いました。

なぜ楽長かというと、軍楽隊は進級が遅いからなのだそうです。

六年以上勤務して下士官になれない、三年以上勤務して一等兵に進級できないということはどういうことかというと、進級し損ねた(お茶を引いた)ということなのでした。

ああああっ!ここまで調べて全力で反町隆史さんに土下座です。
この事実を確かめるべくもう一度「男たちの大和」を観なおしてみました。
中村獅童の内田兵曹は善行章一本。
反町隆史の森脇一主曹の腕に付いていたのは二本。
ああ、善行章二本ね、と最初の知識で「観飛ばしてした」ときは思っていたのですが
賭博場のシーンでばっちり映った右腕を見ると

何と一本は特別善行章でした。

ゼンツーどころか、本当に「善行」をしたときに貰えるベリーグッド印をつけておられたのです。



さて、善行章は真面目に勤務してさえいればもらえたのですが、逆に懲罰対象になったときには褫奪(ちだつ)すなわち取り上げられました。

因みに善行章についての規則を挙げておくと

懲罰、科料、拘留、罰金=普通善行章一線褫脱

禁錮=普通善行章二線、特別善行章全部褫脱

懲役=善行章全部褫脱


反町隆史の「森脇一主曹」が付けていた特別善行章は本当の善行章で、表彰されるべき実績で貰え、山形のてっぺんに桜のマークを付けました。

戦前のペースで言うと、一等兵曹ならば善行章四本以上が相場です。
善行章がないのに下士官(ボタ下士)となると周りから人がいなくなるくらい敬遠されました。

ゼンツー、楽長なら「お茶っぴき」とバカにされるだけですが、ボタ下士となると善行章褫脱組、つまり前科があるかもしれない人だということを証明しながら歩いているようなものだったからですね。



こういった「ゼンツー」や「楽長」の皆さんは、日々こう言った人々の目にさらされながら軍隊生活を送らなければならなかったわけで、おのずとその行動が自暴自棄なものになり、ますます嫌われるという悪循環の連鎖となったもののようですが、こういう行為を「じゃくる」と言いました。
 
じゃくる人はいわゆる「ボタ下士=懲罰下士官」より、試験や戦闘配置の関係で進級しそびれて(お茶を引く、という)不満を持つ人に多かったそうです。
そして、じゃくりの被害にあうのはたいてい、というかほとんどが下の若年兵たちでした。
「けんつくを喰わされる」と表現するやつあたり的な叱られ方をされるわけです。
このジャクリーヌいや男性なのでジャクラーが酒飲みだったりすると一層たちが悪かったもののようです。

この善行章と階級の関係では
さきほどの

「ボタ下士」(善行章が付かないと袖章がボタモチのようだから)とか
「おちょうちん」(善行章なしの一等兵。これは進級が速いという意味)

など、実にバラエティ豊かに種類があるのですが、このお提灯は、むしろ優秀だから、ということが多かったので、同年兵のトップを行く(先頭で提灯を持って歩く)という意味でついたあだ名ではないかといわれています。

あるときのこと、ボタ下士に、花街で出くわした善行章三本の下士官。
ひそひそ相談してから丁重に敬礼しました。
階級は明らかにボタ下士が下にもかかわらずです。

敬意を表したというよりは「何か文句をつけられたら後面倒そうだな」という相談の結果だったのではないかと思うのですが、とにかく階級社会中の階級社会である軍隊、いったん落ちこぼれたら挽回することもできず、やり直しもきかないシビアな世界であったようです。

因みにこのボタ下士、この後花街の女性たちにどん引きされ
「懲罰兵曹がきたよ、みんな気を付けなよ」とひそひそ言われたそうです。
軍隊内だけでなく一般社会でもこんな言われ方。

これがじゃくらずにいられるか。



参考:潮気とユーモア 海軍物語 家村行夫 光人社
   帝国海軍下士官入門 雨倉孝之 光人社NF文庫

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