三谷幸喜監督作品が好きです。
ぶっつけ本番でラジオの生ドラマを作っていく「ラヂオの時間」
年末のホテルをを舞台にいろんなことが起こっていく「THE 有頂天ホテル」
そしてこの「マジック・アワー」。
共通点があるとすれば
壮絶な辻褄合わせ
「ラヂオの時間」が穴の開いてしまったラジオ番組にぶっつけでドラマを作りあげる、
「マジック・アワー」が同時進行で何重にもわたって複数の人間のドラマが交錯し一つの結論にたどり着く、
そして、この「マジック・アワー」はマフィアのボスが探している殺し屋を売れない役者に演じさせてごまかす、というつじつま合わせのストーリーです。
舞台は「スカゴ(守加護)」という港町。
街のボス天塩(西田敏行)の愛人マリ(深津絵里)に手を出してしまったビンゴ(備後)(妻夫木聡)は幻の殺し屋デラ富樫を呼んでくれば命を助けてやると言われ、窮余の一策で売れない役者村田大樹(佐藤浩市)をデラ富樫に仕立て上げる決心をする。
マネージャー(小日向文世)とともに街を訪れ、事務所に乗り込み、相手が本物のギャングとは知らずデラ富樫を熱演する村田、村田と「天塩商会」に嘘がばれないよう四苦八苦する備後、村田をデラ富樫と信じる「天塩商会」の面々。
それぞれの思いやすれ違いが行き交う中、次々と予期せぬ展開が待ち受ける。
というストーリーなのですが、もうこの
「デラ富樫」
という名前だけで怪しさ満点。
三谷映画の登場人物には転んでもただでは起きないネーミングが多々見られますが、
「ラヂオの時間」
の「千本ノッコ」
と並んで、馬鹿馬鹿しい響きじゃありませんか。
今日画像はエリス中尉お気に入りの村田大樹がデラ富樫となりきって手塩商会に現れ、
ボスの机に腰をかけてペーパーナイフをべろべろ舐めながら
「俺がデラ富樫だ 俺に何の用だ」
と凄む場面。
ここを見て笑わない人はいないでしょう。
もう、この佐藤浩市のクサい大根役者ぶりがたまりません。
この映画を最初に観たのは、旅行で乗ったシンガポールエアの機内だったのですが、これに続けて
「アマルフィ」
観たんですよ。
こっちにも佐藤浩市、シリアスな役で出ているんですが、断然「マジック・アワー」の佐藤浩市が好きだ!
本人もこっちの役の方が楽しそう。
三谷監督は実は「作戦好き」
なんだそうです。
作戦もの「スパイ大作戦」とか「史上最大の作戦」のような、ジャンルを問わない
「達成もの」
が好きだと。
おおお!私と一緒だ!「達成もの」好き。
その傾向はこれらの凄絶ななつじつま合わせ映画にも表れていると思うのですが、でも、
どの作にも言えるのは「ありえねえ」展開によってなぜかするすると、物事がうまくいってしまう。
作戦達成し過ぎ(笑)
東大卒某有名商社勤務の高校時代からの友人が海外赴任が決まり、お別れランチをしたときの雑談で、彼が三谷映画を評して
「俺がいつかああいうのをしてやろうと思っていたのに、ヤラレタ!って思った」
っていうんですね。
お断りしておきますが、彼はただのサラリーマンです。
が気持ちはわからんでもない。
三谷映画って、映画を観ていて得られるカタルシスを多少無茶な方法であっても達成してほしいと望む気持ちを、実に巧みに叶えてくれるのですよ。
これをエリス中尉はそのとき
「ああいうのを願望的リアリズムっていうんだろうね」
と評し、彼も賛同してくれたのですが、こういう映画作りをする人って、他にいますか?
友人がヤラレタ、というのも、この「コロンブスの卵」的手法のことらしいです。
劇中映画に、昔の日活映画のパロディが出てきます。
そう、宍戸錠や赤城圭一郎、小林旭なんかがでてきた、国籍不明のギャング映画。
この「どこの世界の話だよ」と言われながら愛されてきた
「国産無国籍ギャング映画」
の憧れのスターに村田大樹が遭遇する、という、映画好きにはわくわくするような仕込みもあります。
村田を騙すために、備後とその仲間は、CМ撮影のカメラをこっそり拝借し、村田を納得させるためだけにそれを回します。
カメラにいつの間にか撮ったはずのない映像が残っているのに気付いたCМスタッフは「いつの間に?」と驚きながらそれを街の映画館で再生します。
「いつかスクリーンいっぱいに映った自分のアップを見たい」
と熱望しつつも芽のでないこの業界にあきらめをつけようとした村田はそれを偶然目にするのです。
まだ観ていない方のために説明は避けますが、私的ベスト映画の一つ
「シネマ・パラダイス」のラストシーン、
映画好きなら何度でも観てしまうあのシーンがこのときの村田の表情にオーバーラップしたのは私だけでしょうか。
古い職人気質の仕込み屋さん、(銃弾仕込み)現場の照明、大道具、村田は最後、こういった
「映画屋」を味方につけ、一世一代の大芝居にでます。
三谷監督の映画に出る俳優は固定しており、この映画にも主役以外で唐沢敏明、中井喜一、谷原章介、鈴木京香などのおなじみの俳優が「チョイ役で」出ています。
このスター固定システムは、三谷幸喜が自分の芝居を自分が手がけるところ以外での上演を許さない理由なのだそうです。
つまり、脚本を書く時点で俳優をイメージして書き進めているからだとか。
このように最初にに役者を決めてから脚本を書く手法を
「当て書き」
というそうです。
何となくこの固定システムは手塚治虫のスターシステムを思わせます。
表題のマジックアワーとは、日没後の
「太陽は沈み切っていながら、まだ辺りが残光に照らされているほんのわずかな、しかし最も美しい時間帯」を指す写真・映画用語。
転じて本作では「誰にでもある『人生で最も輝く瞬間』」を意味するのです。
三谷映画はウィットやユーモアに富んだ演出による、ハートウォーミング、人間賛歌が多く、露骨な社会風刺やグロテスクな描写、きわどいセリフなどは一切使わないということで知られています。
終わったとき、映画に出ていた全員のことが好きになってしまう映画。
観る前より少しだけ人間が好きになっている、そんな映画です。
まだ観ていない方にはお薦めします。
ぶっつけ本番でラジオの生ドラマを作っていく「ラヂオの時間」
年末のホテルをを舞台にいろんなことが起こっていく「THE 有頂天ホテル」
そしてこの「マジック・アワー」。
共通点があるとすれば
壮絶な辻褄合わせ
「ラヂオの時間」が穴の開いてしまったラジオ番組にぶっつけでドラマを作りあげる、
「マジック・アワー」が同時進行で何重にもわたって複数の人間のドラマが交錯し一つの結論にたどり着く、
そして、この「マジック・アワー」はマフィアのボスが探している殺し屋を売れない役者に演じさせてごまかす、というつじつま合わせのストーリーです。
舞台は「スカゴ(守加護)」という港町。
街のボス天塩(西田敏行)の愛人マリ(深津絵里)に手を出してしまったビンゴ(備後)(妻夫木聡)は幻の殺し屋デラ富樫を呼んでくれば命を助けてやると言われ、窮余の一策で売れない役者村田大樹(佐藤浩市)をデラ富樫に仕立て上げる決心をする。
マネージャー(小日向文世)とともに街を訪れ、事務所に乗り込み、相手が本物のギャングとは知らずデラ富樫を熱演する村田、村田と「天塩商会」に嘘がばれないよう四苦八苦する備後、村田をデラ富樫と信じる「天塩商会」の面々。
それぞれの思いやすれ違いが行き交う中、次々と予期せぬ展開が待ち受ける。
というストーリーなのですが、もうこの
「デラ富樫」
という名前だけで怪しさ満点。
三谷映画の登場人物には転んでもただでは起きないネーミングが多々見られますが、
「ラヂオの時間」
の「千本ノッコ」
と並んで、馬鹿馬鹿しい響きじゃありませんか。
今日画像はエリス中尉お気に入りの村田大樹がデラ富樫となりきって手塩商会に現れ、
ボスの机に腰をかけてペーパーナイフをべろべろ舐めながら
「俺がデラ富樫だ 俺に何の用だ」
と凄む場面。
ここを見て笑わない人はいないでしょう。
もう、この佐藤浩市のクサい大根役者ぶりがたまりません。
この映画を最初に観たのは、旅行で乗ったシンガポールエアの機内だったのですが、これに続けて
「アマルフィ」
観たんですよ。
こっちにも佐藤浩市、シリアスな役で出ているんですが、断然「マジック・アワー」の佐藤浩市が好きだ!
本人もこっちの役の方が楽しそう。
三谷監督は実は「作戦好き」
なんだそうです。
作戦もの「スパイ大作戦」とか「史上最大の作戦」のような、ジャンルを問わない
「達成もの」
が好きだと。
おおお!私と一緒だ!「達成もの」好き。
その傾向はこれらの凄絶ななつじつま合わせ映画にも表れていると思うのですが、でも、
どの作にも言えるのは「ありえねえ」展開によってなぜかするすると、物事がうまくいってしまう。
作戦達成し過ぎ(笑)
東大卒某有名商社勤務の高校時代からの友人が海外赴任が決まり、お別れランチをしたときの雑談で、彼が三谷映画を評して
「俺がいつかああいうのをしてやろうと思っていたのに、ヤラレタ!って思った」
っていうんですね。
お断りしておきますが、彼はただのサラリーマンです。
が気持ちはわからんでもない。
三谷映画って、映画を観ていて得られるカタルシスを多少無茶な方法であっても達成してほしいと望む気持ちを、実に巧みに叶えてくれるのですよ。
これをエリス中尉はそのとき
「ああいうのを願望的リアリズムっていうんだろうね」
と評し、彼も賛同してくれたのですが、こういう映画作りをする人って、他にいますか?
友人がヤラレタ、というのも、この「コロンブスの卵」的手法のことらしいです。
劇中映画に、昔の日活映画のパロディが出てきます。
そう、宍戸錠や赤城圭一郎、小林旭なんかがでてきた、国籍不明のギャング映画。
この「どこの世界の話だよ」と言われながら愛されてきた
「国産無国籍ギャング映画」
の憧れのスターに村田大樹が遭遇する、という、映画好きにはわくわくするような仕込みもあります。
村田を騙すために、備後とその仲間は、CМ撮影のカメラをこっそり拝借し、村田を納得させるためだけにそれを回します。
カメラにいつの間にか撮ったはずのない映像が残っているのに気付いたCМスタッフは「いつの間に?」と驚きながらそれを街の映画館で再生します。
「いつかスクリーンいっぱいに映った自分のアップを見たい」
と熱望しつつも芽のでないこの業界にあきらめをつけようとした村田はそれを偶然目にするのです。
まだ観ていない方のために説明は避けますが、私的ベスト映画の一つ
「シネマ・パラダイス」のラストシーン、
映画好きなら何度でも観てしまうあのシーンがこのときの村田の表情にオーバーラップしたのは私だけでしょうか。
古い職人気質の仕込み屋さん、(銃弾仕込み)現場の照明、大道具、村田は最後、こういった
「映画屋」を味方につけ、一世一代の大芝居にでます。
三谷監督の映画に出る俳優は固定しており、この映画にも主役以外で唐沢敏明、中井喜一、谷原章介、鈴木京香などのおなじみの俳優が「チョイ役で」出ています。
このスター固定システムは、三谷幸喜が自分の芝居を自分が手がけるところ以外での上演を許さない理由なのだそうです。
つまり、脚本を書く時点で俳優をイメージして書き進めているからだとか。
このように最初にに役者を決めてから脚本を書く手法を
「当て書き」
というそうです。
何となくこの固定システムは手塚治虫のスターシステムを思わせます。
表題のマジックアワーとは、日没後の
「太陽は沈み切っていながら、まだ辺りが残光に照らされているほんのわずかな、しかし最も美しい時間帯」を指す写真・映画用語。
転じて本作では「誰にでもある『人生で最も輝く瞬間』」を意味するのです。
三谷映画はウィットやユーモアに富んだ演出による、ハートウォーミング、人間賛歌が多く、露骨な社会風刺やグロテスクな描写、きわどいセリフなどは一切使わないということで知られています。
終わったとき、映画に出ていた全員のことが好きになってしまう映画。
観る前より少しだけ人間が好きになっている、そんな映画です。
まだ観ていない方にはお薦めします。