「かしま」JS Kashima, TV-3508
は、練習艦として日本の艦艇としては3代目にあたります。
ところで当ブログでほぼ毎日閲覧数のトップに上がって来るのが
「女王陛下のキス」
というエントリなのですが、これは「かしま」第6代目艦長の上田勝恵1等海佐の
洒脱なユーモアが日本のナーヴァルオフィサー、ひいては
日本国自衛隊に対する評価を多いに高めた、という逸話について書いたものです。
たとえばこの件のような衝突事故が起こり、起こした側に対し起こされた側が
「何でもありませんよ」と慰める意味でいうのはいわば普通ですが、それを
「女王陛下にキスされて光栄に思っております」
ということによって相手のフネが「HMS」つまり「Her Majesty's Ship」
であるということを尊重し、それを讃えているという意味も加わったわけです。
言われた当のイギリス海軍はほっとすると同時に
「やられた!」
と舌を巻いたのではなかったでしょうか。
人の失敗を責めず、相手の気持ちを汲んで思いやるための一言。
ユーモアというものは本来かくあるべきだと思うのですが、
こういう上質なものは「知性」と「情」なしに生まれるものではありません。
勿論これは上田1佐個人の優れた資質から生まれた逸話ですが、
元来我が日本国自衛隊には海軍時代から継承された
「ユーモアの土壌」がありますから、自衛隊には、いざというとき
上田1佐のようなスマートさを発揮できるオフィサーが
結構な数潜在しているに違いないとわたしは思っています。
さて、その「女王陛下の接吻を受けたこともある」「かしま」に
いよいよ乗艦するというところまでお話ししました。
その前に。
雷蔵さん、おっしゃっていたものはこれですね?
こんなこともあろうかと(嘘ですけど)佐世保の倉島岸壁で立ち寄った売店で
購入しておいた「海上自衛隊 礼式参考書」。
ここは自衛官用のこういった小冊子が売られていて、部外者でも
買えることがわかり、手に入れたものです。
ちょっと事情があって汚れてしまいましたが、新品です。
「わたしが招待されたのに封筒の宛名がTOだった」
と(別に不満ではありませんがこういうものだったということで)
前項に書いたところ、海自のこういったレセプションは世界共通マナーに準じるので
夫婦単位で招待される場合は招待者であるわたしも「令夫人」となる、
というコメントをいただいたのですが、
この本はレセプション招待の際の礼式までには言及しておりませんでした。
目次を列記すると、
敬礼、答礼、儀式、栄誉礼、と列、儀仗、礼砲、海外派遣の礼式
が述べられています。
自衛官が個人で確認する「ハンドブック」だからでしょう。
おそらくこういう行事のためにはもっと詳細な礼式本が備えられているに違いありません。
わたしたちはまず受付のテントに立ち寄りました。
すると、ここで貰えるはずの名札ができていないことが判明。
それもそのはず、わたしたちの出席が決まったのは連休明け、
当日まで1週間を切っており、さらにはがきが届いたのは3日前。
出欠の返事も日にちがなく出していませんから、
出席者名簿にも載っていなかったのでしょう。
しかも女性自衛官に
「すみませんが、招待状をお見せいただけますか」
と言われて車に置いてきたのに気づき、慌てて取りに帰ったという段取りの悪さ。
企業のパーティならなあなあで入れてくれるかもしれませんが、
何しろ会場は自衛艦、列席者は自衛隊高級幹部は勿論のこと防衛大臣始め政治家多数。
警備の面からもそういうアヤシイ身分の者を自衛官の判断で入れるわけにいきません。
招待状を見せ、名札を作ってもらって(TOは名刺を名札にした)
ようやく乗艦することができるようになりました。
ラッタルを上がる前にラッタル下で待機している実習幹部が
影のように(笑)寄り添ってきて、
「艦内までご案内いたします」
といいつつ先導をしてくれます。
ラッタルの前にはセーラー服の海士くんたちが並び、
その間を通過していくという、晴れがましいと云うか気恥ずかしい状況。
彼らを「舷門堵列員」といいます。
艦長や司令官の交代行事、艦の所属する指揮系統上の上司による巡視、
検閲、高官の公式訪問等、当該艦に迎える対象者のランクによって
人数が決められている礼式のひとつです。
上の「礼式参考書」によると(早速役立ってます)
と列部隊は、受礼者が通る道路などの一側または両側に整列し、
受礼者の送迎に際し敬礼を行なうものとする。
とあります。
こういう些細なことも、伝統墨守の海上自衛隊にはちゃんとした決まりがあり、
おそらく海軍時代からの規則に則って行なわれているんですね。
「今日も残る海軍の歴史的伝統」をまさに目の当たりにすることができる、
海上自衛隊の行事に触れることの大きな意味はこんなところにもあります。
「ここで会合やミーティングが行なわれます」
案内の先導に立ちながら若き士官さんはちょっとした説明をします。
相手が一般人の場合、このような自衛艦についての説明をする、
という風に決まっているようですね。
わたしたちは初めてのことで、当初はこのアテンドが
「ただ中まで連れて行ってくれるだけの人」
だと思っていたのですが、このあたりから前にも言ったように
「接待係」でもあることに気がつきました。
乗組員の名札。
赤は不在かな?
上は幹部と先任海曹、下は海曹海士。
「音楽隊長」(2尉)「音楽隊士」(3尉)も名前があります。
艦隊乗り組みの音楽隊も勿論あるわけですが、それが「常設」なのか、
遠洋航海のときだけ組織されるのかはわかりませんでした。
溺者救助のための浮き輪を指差し、
「浮き輪が海に浮かぶとこの旗が目印になります」
と(わたしにとっては)周知のことを説明してくれる3尉。
しかし横にいる「本日の招待者ご本人」は何も知りませんから、
横の発煙筒を指差し、
「このオレンジ色のものは何ですか」
などと質問したりしておりました。
向こう側に今回練習艦隊に「かしま」とともに出航する
「あさぎり」「せとゆき」
が見えています。
「せとゆき」の艦長は先日「占守」のことを書いた日に
「初めての女性艦長が誕生し、初のお召し艦にもなった」
とご紹介したのですが、その「せとゆき」艦長東良子1佐は、
この日受付のところにおられました。
その練習艦隊司令官が、この方、
湯浅秀樹海将補。
向こうに立っているのが副官です。
実は今ちょっとこのエントリのために中断している有田訪問記ですが、
深川製磁の資料室でこの2日前にわたしは
このようなものをちゃんと見つけていたんですね~。
第二護衛隊群、というのはつまり佐世保に拠点を置きますから、
ここの司令になると同時に深川製磁で壷を作る、というのが
慣例として決まっているというわけです。
この壷についてはまた後日他の写真も挙げてお話ししますが、
湯浅海将補はこうやってレセプションの客を一人一人迎え、
さらにお開きのときには同じようにお見送りするのです。
実はわたし、お見送りのときに湯浅海将補に
「二日前深川製磁で海将補の作られた壷を見たのですが」
と言ってみました。
だからどうした、って感じですが(笑)他に話もないもので。
すると海将補、
「ああ、あれですか!」
と言って、ニコニコしながら同時に両手で壷の形をお描きになりました。
海将補かわいいよ海将補。
なんか、ナーヴァルオフィサーのユーモアの片鱗を見た気がします。
・・・・単にこの方のノリというか性格かもしれませんが。
さて、会場は既に人がいっぱい。
「かしま」は練習艦隊の旗艦として、毎年遠洋航海で諸外国を訪問しますが、
初任幹部の練習航海という第一の目的とともに、訪問国との親善という任務を持ち、
寄港地では数々の公式行事があります。
そのため他の護衛艦にはない練習艦特有の装備を備えています。
まず「礼砲」を2門装備していること。
礼砲は訪問国の港に入る前、相手国の国旗に対し21発の礼砲を互いに交換し、
続けてその港が軍港である場合、その基地の指揮官の階級に応じた数の礼砲を交換します。
このとき乗組員は昇舷礼式を行います。
艦内にも「日本国の顔」として公式儀礼を行うのにふさわしい配慮、たとえば
大統領や国王、首相など、訪問国の元首クラスの賓客を迎えるための特別公室を持ち、
また、このようなレセプション会場として使用するため、
上の写真上部に見える引き込み格納式の天幕が備えられています。
この天幕小さなランプがたくさん付いてるけど引き込むときどうなるんだろう。
と、相変わらずつまらないことが気になるわたしですが、ついでにこの
写真でカメラ目線の蝶ネクタイ白服の「ボーイさん」は、
ホテルからの出張サービスではありません。
自衛官です。
この日、ラッタルの下以外に海士のセーラー服をほとんど見なかったのですが、
実は彼らは殆どがこのような姿に身をやつしているようでした。
ちなみに、この蝶ネク白服の一人に聞いてみたところ、
「ちゃんと艦内の倉庫に日頃収納してある」
のをこういうときに出して来るそうです。
そしてその左側の少尉さんですが、これが実習候補生。
何をしているかと云うと、アテンド客のために食べ物を取っています。
お、陸軍軍人がいる(笑)
陸自幹部は何人か見ましたが、空自の幹部は見なかった気がします。
右側の女性幹部も勿論実習生。
この日女性の実習生が結構目に着きましたが「かしま」は設計段階より
女性実習幹部の乗艦が考慮されており、専用の居住区が設けられています。
それにしてもこの豪華さ・・。
アワビやサザエまでありますね。
練習艦隊でさすがに活け造りはしないと思いますが・・。
(オーストラリアではクレームで活け造り禁止)
それにしても、「ふゆづき」祝賀会とそう間も分たず、
再び美味しくて豪華と評判の「海軍のめし」を頂くことになろうとは、
実に感無量です。
「ふゆづき」パーティのときは緊張して一所にじっとしていたため
お寿司しか食べなかったけど、今日はできるだけいろんなものを味わってみたい。
皆さまにここでご報告するためにも(笑い)
そう心に決め、「かしま」レセプション会場に立ったエリス中尉であります。
というところで続く。