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練習艦かしま艦上レセプション~「かしま」カレー

2014-05-17 | 自衛隊

さて、この艦上では知り合いの方、知り合いの紹介で初めてお会いする方、
元からこちらが存じ上げていたけど初めてご挨拶した方、そして
アテンドしてくれた「かしま」の実習幹部など、多くの出会いがありました。

が、(笑)今日はとりあえずレセプションで出された御馳走のことからです。

なぜなら、まずどんな一流ホテルの宴会にも引けを取らないような、
いや、わたしの見た限り大抵の立食宴会よりもよほど豪華なこれらの料理は、
これ全て練習艦「かしま」のキッチンで作られ、そこから運ばれてくるわけで、
これについて語ることはすなわち「かしま」全乗組員の胃袋を支える調理人、
「給養員」の技量を語ることになるからです。


「カレーグランプリ」のイベントが、実は自衛隊的には

「給養員の存在並びにその技量を知って頂くためのもの」

であった、ということはこのブログでもお話ししたわけですが、
そういった時流に乗った自衛隊のあの手この手の広報が功を奏してか、
最近では、給養員を目指すために自衛隊を志願する者もいるようです。
(全くデータはありませんが、ヤフー知恵袋の質問の多さで独自に判断)


ところで、この項を書くために調べていて初めて知ったのですが、
陸自には「給養員」はおらず、交代で給養を行なうのですってね。

そういえば「野外烹炊」1号だか2号だかでカレーを作っていた隊員は、
調理をするにしては妙に体格がムキムキで、鍋を混ぜているというよりも
コンクリでも練っているようなワイルドさがありましたが、
あの違和感は専門の調理係ではなかったからなのか。

「汗の隠し味を加えながらガテンな作り方をして」

などとそれを評したのはあながち思い込みでもなかったってことなのね。

話がそれました。
陸自のガテンカレーも時と場所によっては最高の御馳走ですが、それはそれとして、
やはり「海軍の台所」つまり海自のキッチンはは三隊の中でも特別だと思われます。


昔から「外国航路の船で料理を作っていたコック」というと、それは
「一流の腕」を保証されていたように、船舶上の料理は、そこが閉ざされた海の上で
食事が最大の楽しみであることから、非常に重視されてきました。

「海の上で戦う軍隊」である海軍もまた、その慣習を踏襲し、
さらにその上にイギリス海軍から手本を得たマナーを加味して、あの、
一種独特な海軍の食文化を作り上げてきたのです。

帝国海軍の直系であるところの海上自衛隊がその伝統を受け継いでいるのは
当然のことと思われるわけですが、さらにこの「かしま」はそれに加え

「初任幹部の練習航海という目的とともに、訪問国との親善という任務があるため
寄港地では数々の公式行事を行ない」

「大統領や国王、首相など、訪問国の元首クラスの賓客を迎えるための特別公室を持ち、
また、このようなレセプション会場として使用される」

といういわば「外交艦」の役割を担っています。

つまり、国際外交の場にも供される料理を一手に賄うこの「かしま」のキッチンは、
単なる推測ですが、全海自艦艇のなかでももしかしたら

特に優秀な給養員が配置されているのではないだろうか

と思われるのですが、果たして実際はどうなのでしょうか。




さて、「かしま」レセプション会場は豪華な刺身の盛り合わせ、
あるいはローストビーフや華麗な飾り付けで仕上げたオードブルも勿論ありましたが、
パーティ会場には付きものの屋台が三つ出されていました。

 その一つ目、やきとりコーナー。



TOは護衛艦の上に屋台が出ているのにまず驚いていました。
時間が経つと不味いもの、特に焼き鳥などは屋台で出来立てを食べるに限ります。

出来て間髪入れずに食べないと秒速で不味くなるものの代表に天ぷらがありますが、
わたしは天ぷらの屋台でキスの天ぷらを一つだけ抹茶塩で食べてみました。
(種類がありすぎて迷って選べないほどたくさんの種類の塩があった)

さっくりしてふわっとした歯触りは天ぷら屋さんの揚げたてとまるで同じでした。




おでん屋台。

こういう屋台も護衛艦の「備品」で、この法被やかぶり物も全て
艦内のどこかに日頃は収納されていると考えるとなんだか微笑ましいですね。

屋台の後ろにはなんと三人もの給養員が待機していて、
品薄にならないように補充する係をしています。
TOがよそっておいてある皿を手に取ると、女性の方が

「新しくおつぎします」

といってよそってくれました。
彼は卵以外(彼はなぜかおでんの卵が大の苦手)を全部頼み、

「大根以外は皆美味しい」

大根はさすがに煮込み出してあまり時間が経っていないので
「味が沁み込んでいなかった」とのこと。

そしておでんの向こう側はカレーの鍋が!

そこでわたしはカレーをよそっている自衛官に、

「これは『かしま』のカレーですか」

と訪ねました。
この質問の「かしまのカレー」という言葉には

「このカレーは、海上自衛隊がカレーグランプリなるものまで
催すほどに有名になった護衛艦オリジナルレシピ、たとえば

たまねぎにんじんじゃがいもにんにくしょうがは水洗いして汚れを落とし

皮を剥いてニンニクショウガをみじん切りにしタマネギ3分の2をさいの目切り
牛豚鶏肉さいの目切りジャガイモさいの目切りし人参はいちょう切りし
りんごは皮ごとおろし金で刷りそれらを鍋に入れ菜種油で
焦がさないように1時間炒め
カレー粉ガラムマサラブラックペッパーを入れ
香りを引き出しタマネギ人参バナナ
トマトホールに水を加えて
ミキサーで細かくみじんにしたものと野菜や肉と湯を会わせ

湯とローリエを入れあくを取りながら各素材を柔らかく煮込み火を止め
固形カレーを入れ
中濃ソースウスターソース焼き肉のたれ蜂蜜白ワイン
プレーンヨーグルトなどで味を整え
それらを再び鍋に入れて火にかけ
攪拌しながら加熱しバター牛乳を入れさらに攪拌しながら
味を調整する


というような手間と家庭で作ったら家計を(略)というようなものを
さらに「かしま」のキッチンの威信をかけて作ったオリジナルカレーなのですか」

という意味を全て込めたつもりです。

対してはっぴにかぶり物、同じ格好をしていても新宿の炉端焼きで働いている
バイト青年の10倍くらい立ち居振る舞いにこころなしか緊張感の感じられる
「カレー配膳係」はおそらくわたしの質問の意味を直ちに理解したのでしょう。
たった一言、

「そうです」

と答えました。
わたしはその答えのなかにに上記15行への力強い肯定を読み取って
ありがたく一皿よそって頂くことにしたのでした。大げさだな。



いざ勝負。

わたしが食べる前にすでに一皿手にしていたTOがまず、

「何これ!うますぎる!」

と目を丸くして感嘆しました。

横須賀を本店に持つ多くのカレー本舗とやらが「海軍カレー」と銘打って
あの手この手でレトルトカレーを販売しているわけですが、
本物の海軍カレーはそれらとははっきりいって全く別物。格が違います。

一口含んだとたん、まず感じるのはまろやかさ。
とにかくそこに加えられた食材の数の多さと、それを調和させるための
気の遠くなるような工程がたゆまぬ研究と工夫を経て凝縮されている
というに相応しい複雑な味でありながら、
こっくりと煮込まれたルーの舌触りの滑らかさ、絶妙の粘り気。

それは辛すぎもせず甘くもなく抑制され、しかし旨味を感じずにいられません。
そしてカレーを受け止める白いご飯は一粒一粒がぴかっと光っており、
これも柔らかさと粘りはカレーとの間に妙なるハーモニーを生み出しています。
まさに名人芸のような至高の一品がそこにはありました。

しかも(まだ言うか)これだけ煮込まれて滑らかな口溶けでありながら、
その中にしっかりと存在感を主張する具の数々。
ビーフ、タマネギ、人参、それらの味わいも残しつつ調和しています。

一言で言うと、美味しかったです(笑)


実はこれを食べたとき、わたしは今更ながらにあのカレーグランプリで、
多少無理をしてでも、護衛艦見学に不便を来したとしても、
各艦自慢のカレーを食べておくべきだったとあらためて思いました。

「かしま」はそのときのグランプリにはエントリしていません。

わたしは食べた瞬間、

「もしかしまが出品していたら間違いなく一位だったに違いない」

と思ったくらい、つまりこのカレーは衝撃的に美味しかったのですが、
それが最初に推理したように「かしま」がその艦の性質から特別に
選抜されたような給養員を集めているからなのか、それとも海自は
ごく普通のレベルとしてこれだけのカレーをどこの艦でも作れるのか、
もしあのときカレーを少しでも食べていたら判断できたと思うからです。





こういう舟盛りの台も備えているってことなんですねこのフネは・・。
そして今気づいたのですが、この舟盛り始め刺身の乗っているトレイ!


これは・・・・・・海を表しているのではないだろうか。

アルミホイルをくしゃくしゃにしたものを広げて敷き詰め、
上からブルーの透明のシートを張ったもので、



これを見たところ、専用の「刺身用ステージ」だと思います。

さすがは海上自衛隊。
「海」へのこだわりは三隊一だ。



こちらからハムとソーセージ、寿司桶、海老フライ。
残念ながらいかに意気込んでもカレーの小皿を食べてしまった後には
寿司桶からサーモンの握りを一つつまんだだけに終わりました。

無念じゃ・・・・。



ちょうどお開きの頃にはわたしたちは「別腹部隊」となって
口直しのフルーツなど賞味していました。

デザートのスイーツはヨーグルトにフルーツを混ぜ込んだものとかで、
さすがの自衛隊も専門のパティシエはいないらしく、ケーキは見ませんでした。
このプチフールを一つ取ってみたのですが、どちらかというと、
「彩り」「装飾」の意味合いが大きいのではないかと思われました。

どういう意味かというと、深い意味はなく、このタルトは一口いただいて
後は速やかにTOに処理を押し付けた、というお味だったという意味です。



会場にはこのように、幹部候補生が江田島を卒業したとき、
兵学校の卒業生のように「表門」である港から旅立ち、
練習艦隊に乗り込む様子、(おそらく)ロングサインに送られて
見送りの人々に「帽ふれ」をする様子が写真で展示されていました。



かっこいい米海軍軍人発見。
招待客は米海軍からは勿論のこと、この練習艦隊が寄港する国の大使館員、駐在武官。

アテンドしてくれた実習幹部によると、

「今年実習航海としては自衛隊が初めて寄港する土地もある」

ということで、キューバを代表して大使が来ているとのことでした。



この左のアブドラ・ザ・ブッチャーな人(ご本人は見てないと思うけどすみません)
がそのキューバ関係の方ではないかと思うのですが、自信ありません。



大阪で参加された読者の方のコメントによると、

いろんな人がいて気おくれする必要はなかったのですが、逆に、
ん~・・・マナーがちょっと、な人がわりと見受けられたのが残念でした。

ということですが、やはり晴海はマナーは全く皆さん問題ありませんでした。
場所柄多くのVIPが出席していましたし。

そしてそのVIPの最高峰発見。

ブッチャーと右手の海将の間に見える後ろ姿の男性、
名刺を出そうとしているのは、小野寺防衛大臣です。

小野寺大臣はジブチから帰国したばかり。
アフリカでは、南スーダンでのPKO活動に参加している自衛隊や、
ジブチにあるソマリア沖の
海賊対策に当たる自衛隊の活動拠点を視察しました。

イタリアも訪問し、国防相との会談で東シナ海や南シナ海での中国の動向や、
緊迫の度合いを深める
ウクライナ情勢を巡って意見を交わし、
力による現状変更は容認しない立場を確認したそうです。

(イタリア国防相って、女性なんですね。防衛省の報告に写真が出てますが)

南スーダンやジブチで活動する自衛隊を防衛大臣が視察するのは初めてなのだとか。

NHKのニュースによると、安倍政権が掲げる積極的平和主義の下に
海外での自衛隊の
活動を重視する姿勢を強調する、という狙いがあったようです。


小野寺大臣は個人的に大変好感を持っているのですが、さすがに
これほどの大物ともなると周りが放っておくわけもなく、次々と
大臣の前には名刺交換のために人が訪れ、一緒に写真を撮ったりして
一瞬たりとも話しかけるチャンスはありませんでした。

まあ、話しかけるつもりも予定もなかったんですけどね。




そしてわたしが職業柄耳をそばだてて注意していた「艦上バンド」。
勿論音楽隊の選抜メンバーです。

音楽隊の稼働に付いてはいくら音楽関係者でも外部からは全く
その実体は窺い知れません。

たとえばこのメンバー、キーボード、ドラムス、ブラス、木管、
(あれ、ドラムスは女性だ)彼らはこの「かしま」に乗り組みで
最初から最後までずっとここで演奏するのか?

あるいは東京音楽隊から派遣されてこのレセプションのために
臨時編成されたバンドなのか?

他の音楽隊員より拘束時間が長かったりする場合、
手当は出るのか?(これはたぶん出ないと思いますが)

キーボードを弾いている人は、おそらくキーボードではなく
別の楽器で入隊しているはずだけど、ピアノが弾けるから
こういう場合にはキーボード奏者になっているのか?

ジャズナンバーもやっていたけど、アドリブソロは
コピーではなく本当に「アドリブ」なのか?

彼らにもし質問する機会があったら、これらの疑問、
特に最後についてを聞いてみたかったです。

ちなみに、演奏していたのは軽めのジャズやラテン、
映画音楽といったところ。

「黒いオルフェ」「The shadow of your smile」

などが耳に残りましたが、後は社交と食べるのに集中していて(笑)
曲名で覚えているのはこの2曲だけです。なかなか情けないですね。

しかし、耳はしっかり音楽をいつも捉えていて、
そのときそのときで内容をチェック(どうしてもね)してしまうのが
腐っても音楽関係者の習性というもの。

いわゆるジャズ奏者の「バイショー」的仕事のように曲名とコードだけで
「ぶっつけ本番」しているようなアレンジには聴こえなかったのですが、
(ちゃんと皆楽譜を見ていたし)こういうパーティー用の曲はやはり日頃から
ちゃんとアレンジした楽譜がストックしてあるのでしょうか。


本来ミュージシャンに取っては「アルバイト」的感覚で受けるこうした仕事も
彼らにとっては「自衛官としての任務」であるというのが不思議な感じがします。
超一流ホテルの宴会にも負けない味を、決して広くない自衛艦のキッチンから
魔法のように作り出す給養員たち、なんていうのもそうですが、
あらためて自衛隊という組織の職種とそれにかかわる人材の多様さを認識します。


続く。