大阪シェラトンホテルで行われた水交会主催による壮行会のあと、
同ホテルに宿泊して次の夕方、わたしは「かしま」艦上における
レセプション出席のために昨日練習艦隊をお迎えした神戸に向かいました。
レセプション終了後、1日二本しかない羽田行きの最終に乗るため、
先に神戸空港のコインロッカーにトランクを預けてきました。
ポートターミナル駅まで向かうポートライナーからは
沈んだばかりの夕日の残照が染める空に浮かぶ明石海峡大橋が見えます。
ポートライナーの車内から見た岸壁の「かしま」。
車内の仕事帰りらしい乗客の多くはポートターミナルの見慣れない船に
目を奪われているように見えました。
岸壁に降りてから、「かしま」の舳先へと歩いて行ってみました。
岸壁の橋の車は関係者のもののようです。
岸壁ギリギリに立ってようやく「かしま」の艦首がフレームに治りました。
「いなづま」はどうしても入りません。
ラッタルの下にはセーラー服の海士くんたちが堵列を作っており、
彼らに挨拶をしながら艦上に上って行くと、今度は舷門で
海曹と幹部が敬礼でお迎えしてくれます。
前を行く海軍の艦内帽の方は海自OBでしょうか。
「かしま」は構造上、舷側を歩いていくと途中からなだらかな坂になり、
坂を下っていくと甲板に到達する仕組みです。
航海中のランニングには、多少のアップダウンがあっていいのかもしれません。
開場時間より早く着いたつもりだったのですが、乗艦してみると
すでにたくさんの人が乗艦しているのに驚きました。
今年は何と、チョコレートファウンテンが配備されています。
万が一転倒しても大惨事にならないようにアクリルのケースを付ける、
という気配りがされているのがさすが。
このチョコレートファウンテンは今年から導入された新兵器です。
ちなみにいくらぐらいで買えるのだろうと思って調べてみると、
家庭用は六千円から、業務用は何万もするようです。
何が違うのかわかりませんが、この装備、海外のレセプションで
さぞかし喜ばれることと思われます。
向こうの人、チョコレートファウンテン好きだからね。
今年一番驚いたのは、「かしま」にメザシされている隣の「いなづま」の甲板が
解放されて、レセプション会場が二倍になっていたことです。
しかも、もうすでにかなりの人で会場が埋まっているという・・。
去年の大阪港での艦上レセプションにお呼びいただきましたが、
とにかく「かしま」の甲板の大きさに対して来客が多すぎて、
大変な阿鼻叫喚(心象風景的に)となってしまっていたのを思い出します。
とにかく関西では「かしま」一艦だけでは無理!ということになったのでしょう。
他の寄港地でもこのめざし式にするのかどうか楽しみです。
両艦の間の通路も、一方通行となるようにラッタルを二基架けています。
ブリッジの真ん中から防舷物を挟んで並ぶ艦体を望む。
後ろに遠慮がちに?停泊している「やまゆき」。
「やまゆき」の甲板にはヘリコプターが搭載されているのでパーティには使えません。
「やまゆき」艦体の下から水が吹き出しています。
艦首の国籍旗は昨日入港の際掲揚されてそのままでしょうか。
会場に入ってすぐ、わたしはあることに気がつきました。
こんなにたくさん客が開場時間前に入っているのに、まだ誰も
料理を食べ始めていません。
普通そうだろう、食べ物に手をつけていいのは乾杯のあとだろう、
そう思ったあなた、あなたは大阪(関西か)を知らない。
去年も書いたのでご存知の方もおられるかもしれませんが、
関西におけるレセプションでは、どういうわけか、乾杯もすまないうちに
必ず誰かが食べ始め、そのうち我も我もと皆が食べ始めちゃうんですよ。
去年の大阪港で行われた艦上レセプションに、わたしは少し遅れて、
ちょうど艦隊司令の挨拶が終わったくらいに到着したのですが、
その時すでに皆食べ始めていたらしく(流石に挨拶中は食べずに聞いていたようです)
乾杯が始まった頃には雲丹などの高級食材が真っ先に食い尽くされ、
すぐにサシミ・イズ・ゴーン(なぜ英語)となって、こちらを驚嘆させたものです。
さすがに乾杯前に飲食が始まってしまうのは如何なものか、
と練習艦隊本部が本気で頭を悩ませた(のかどうか知りませんが)結果、
乾杯までラップで料理に蓋をすることで阻止する作戦に出たようで、
この日の神戸において、見事にその作戦は功を奏しておりました。
練習艦隊司令梶元大介海将補がまずご挨拶。
後ろの雷神風神の暖簾があり、この時は意味がわからなかったのですが、
後から「いなづま」から借りてきたものではないかと気づきました。
「かしま」艦長、「いなづま」艦長、そして「やまゆき」艦長。
今回は艦隊司令、全ての艦長にご挨拶することができました。
「やまゆき」艦長に
「いなづまの甲板を繋げてレセプション会場にするなんて、初めてですね」
というと、艦長は、練習艦隊に参加するのはご自身の遠洋航海以来初めてで、
それが珍しいことなのかどうかわからない、とおっしゃっていました。
「かしま」艦長に江田島出航における錨のアクシデントの話を伺ったのも
この艦上レセプション会場です。
そして「かしま」の鉄壁の守り、つまり料理にかけられたラップが
乾杯の発声と同時にはずされる瞬間がやってきました。
こちらに見えるのは海自のレセプションではもうすっかりおなじみになった
フルーツカーヴィング、つまり果物の飾り彫り。
今年はスイカを丸ごと使うのではなく、皮に彫刻を施しています。
はて、フルーツの中ににスイカは見えないようだが中身は何処に。
ラップをまとめる手がまだテーブルの上にあるうちに、
その脇から箸が伸びてきております。
わたしはそれらの賑わいをテーブルのこちらから見ながら、
手前にあるオードゥブルを食べ、(チェリー入りバターを塗ったフランスパン美味)
その後艦内回遊に突入したので、結局刺身は一切れも食べずじまいでした。
「練習艦隊」と書かれた舟盛りは「かしま」お得意の一品で、
魚が跳ねているように頭と尻尾をあしらい、さらには刺身に人参で
椿の花を作って飾りつけるという凝ったもの。
世界各地で「かしま」はその土地のVIPを招待するわけですが、
間違いなくこの舟盛りは彼らの見たことがないような「サシミ」となり、
海老や魚の頭を飾るというのもほとんどの外国人には驚きとなるでしょう。
日没時間が近づきました。
わたしは見通しのいい「いなづま」で自衛艦旗降下を見学することにしましたが、
もちろん甲板にテントを張った「かしま」でもそれは行われていたはずです。
自衛艦旗降下を行う「いなづま」の当直士官は女性自衛官でした。
彼女がオランダ坂の上に立ち、下の海曹海士による降下を見守ります。
告知があってから実際に降下を始めるまで、いつもかなり長時間待ちますが、
発動の何分前からこのようにして待機しているのでしょうか。
何れにしても10分くらい?の間、当直の3人は
手を後ろに回した姿勢で立って発動の時刻(とき)を待ちます。
海曹・海士の手が自衛艦旗の旗索にかけられました。
実はこのとき当直士官の周りには人が詰め寄せており、皆が
携帯を構えて旗掲揚の動画や写真を撮ろうと待ち構えています。
すると、一人の年配の方が当直士官と旗の間に身をを乗り出してきたので、
いくら直接的に邪魔にならなかったとしてもそれは宜しくないと思い、
「前に出られないほうがいいですよ」
とやんわり注意させていただきました。
まあ、こちらが思っているほど当の自衛官は気にもしておらず、
こんなものだと割り切っている可能性は高いですが、
一般人として艦にお邪魔している身なのだから、もう少し
自衛隊の儀礼に敬意を払いましょうってことで。
(あれ?最近同じようなことを書いたな)
ところで、この写真に写っている「やまゆき」の艦首にはまだ
艦首旗が揚がっていますが・・・・・・
「じかーん」
もうこの写真の「やまゆき」からは国籍旗が降ろされています。
士官が敬礼をし、ラッパ譜「君が代」の鳴り響く中、
ゆっくりした動作で二人が索を引いて旗を掲揚してゆきます。
呉の夕暮れクルーズで自衛艦旗降下を遊覧船から見たときには、
各艦船で吹鳴されるラッパ譜が揃っているようで微妙にずれていて、
それもまた軍港らしい風情があるなあと感動したものですが、このときは
思い出す限りラッパは一本の音しか聞こえてきませんでした。
「かしま」の喇叭手だけが君が代を吹奏したのかもしれません。
同時に電飾の灯りが点灯されました。
降下が終わると、途端にオランダ坂の上から人がいなくなりました。
竿から自衛艦旗を降ろした海曹と海士は、いつ見ても全く同じやり方で
自衛艦旗を畳んでいきます。
まず縦に半分に、そしてそれを二人が歩み寄って半分に。
おそらくこの所作も、海軍時代に制定されたものが今日もまた、
全く同じやりかたで粛々と繰り返されているのでしょう。
続く。