今年の「ライモンダ」と、前回上演'88年の「ライモンダ」で、物語の意味する所が、少し違って見えた話を。マイナーな話です。今回のは今回ので、いいのだけど。
【前回上演の、ボリショイ来日公演の「ライモンダ」、私の見たキャスト】
ライモンダ:ミハリチェンコ
ジャン:ムハメドフ
アブデラーマン:タランダ&A.ヴェトロフ
2公演見たけど、両方同じプリマで、もしかしたら、下記は、ミハリチェンコとタランダでしか、感じ取れない、固有の解釈だった、とか、あるかも?
'03年の改訂のアシスタントが、ベスメルトノワになっていて、もしかしたら、彼女はそういう解釈ではないのかも?、とも思ったので。
元々、「ライモンダ」は、あまり大したストーリーではない、踊りを見るバレエ、と考えられているかもしれないけど。
【ボリショイ来日公演'88年の「ライモンダ」】
たまたま、私の見たのは、女の子の心の成長物語になっていて。
1.1幕でのライモンダは、初々しい乙女。ジャンとは、定められた許婚。
2.その彼女に、ジャンが十字軍出征で去る事で、彼女は「待つ」立場になって、彼の不在をさみしいと感じる、そこから女らしい気持が生まれる。
(ミハリチェンコが、ジャンの出征後、1幕でリュートを奏でた時、遠くの席まで寂しさが伝わってきた。)
3.もう一つは、アブデラーマン、彼に、女として求められる。強く求愛されることで、女性としての気持ちを、刺激される.
その2つのことを通じて、3幕では少し、女性として成長したライモンダになってる。
(演出技法として、1幕と3幕が同じようでいて、少しだけ主人公が成長して、1幕から変化してる、という構図は、劇では時々ある。)
ジャンを待つ寂しさだけでなく、一見、お邪魔虫の横恋慕男に見えるアブデも、何割か、彼女の心の成長に影響を与えてる、というわけ。
★以前の日記に、唐十郎の演劇の話で、「観劇した時に、意味分からなくても、後から解ってもいい」という話を書いたけど、私の場合、このバレエを見て、リアルタイムで作品を解ったのでなく。自分も、その頃、恋愛関係のことをわかってる人間ではなかったので、その時は、ただ美しいプリマに魅了されてただけ。
後になってから、何かのきっかけで、突然、”そういえば、そうだ、”と自分の実体験を顧みて、思った。
女やってると、十代とかで、「君が好きだ、すきだ、好きだーッ!!!」と言ってくる男性っているもんで、で、そういう人が皆、恋人候補になるわけでもなく、私は早熟な方ではなかったので、よく意味が分らず、スルーしてた。早熟な女性は違うかもしれないけど。
で、後から思えば、そういうのも、しかるべき相手と結ばれるプロセスの水先案内みたいな役割を果たしてたりするのかもね、と。
【夢の中の人】
脱線したけど、当時のタランダの解釈は、「悪役でも、愛は清らかなものですから。」というものだった。
作品の解説では、アブデは、愛の影の部分とか、性とかの比喩みたいなことも、書いてあった。
何より、一番違ったのが、「夢」の場面の印象。
ジャンより、アブデの方が印象的だったし、舞台の上が、ほんとに夢っぽかった。
ジャンがさらっと去ってしまった後、どこから出たのか?と思うような、怪しい登場。
今年の舞台にはなかった、危険な匂い!
それがタランダの演技力の為か、それとも照明の暗さや、演出の改変の為かは???
たぶん両方。登場の瞬間、衝撃があった。
舞台見ただけでは、怪しい危険な男、と思ったけど。
それが、セクシーでもあり、誘惑でもあるのね。(私が当時まだ、そういうことまで分ってなかった。)
ああ、ほんとに夢だ!夢そのものだ!と思って、バレエで、こんな深い表現ができるなんて!と思ったのが、今年の舞台には無かった。
今年の舞台は、夢の暗い部分、怪しげなもやもやした部分が捨象され、ひたすら甘いトーン。
実際の夢は、'88年の方が、近い。これは、残念。
【ジャンとの関係】
今年のは、最初からラブラブの関係。昔のは、そこまでではなくて、1幕から3幕の間に、うら若き乙女がだんだん女として成長する、ジャンとの関係も深まる、という表現で、もっと知的な内容だった。
【グリゴローヴィチ版の夢の場面】
グリゴロ版の夢の場って独特で、私は、この「ライモンダ」の怪しい男の出てくる性的な暗示的な夢の部分も、深い芸術性に打たれた。
さらに、もっと衝撃だったのは、グリゴローヴィチ版「ロミオとジュリエット」の、3幕のジュリエットの見る夢。
怪しげな薬を飲んだジュリエットは、悪い夢にうなされる。
舞台の上は、その、彼女の見た夢の内容。
最初は、愛しいロミオが出てきて、アダージョを踊る。夢の中のロミオは、少しだけ前より大人びた表情で、とても切ない顔をしていた。彼の愛と、彼らの先行きを暗示するように。
そして、ロミオが行ってしまい、ジュリエットがそちらを向くと、入れ替わりに、ロミオに殺されたティボルトが、赤い布を被って、ジュリエットを脅かすように踊りながら近づいてくる。
―ティボルトは、自分を殺したロミオと結ばれたいとこのジュリエットを、あの世で恨んでいる事だろう・・・。
ふっと思った。
この場面は、原作の戯曲になく、グリゴローヴィチの創作。けれど、服薬した後のジュリエットが、薬による不快な眠りの時に、いかにも見そうな夢。
”ほんとうに、実際の夢ってこんな感じだな、”と、舞台を見ながら、ひたすら感じ入っておりました。
【前回上演の、ボリショイ来日公演の「ライモンダ」、私の見たキャスト】
ライモンダ:ミハリチェンコ
ジャン:ムハメドフ
アブデラーマン:タランダ&A.ヴェトロフ
2公演見たけど、両方同じプリマで、もしかしたら、下記は、ミハリチェンコとタランダでしか、感じ取れない、固有の解釈だった、とか、あるかも?
'03年の改訂のアシスタントが、ベスメルトノワになっていて、もしかしたら、彼女はそういう解釈ではないのかも?、とも思ったので。
元々、「ライモンダ」は、あまり大したストーリーではない、踊りを見るバレエ、と考えられているかもしれないけど。
【ボリショイ来日公演'88年の「ライモンダ」】
たまたま、私の見たのは、女の子の心の成長物語になっていて。
1.1幕でのライモンダは、初々しい乙女。ジャンとは、定められた許婚。
2.その彼女に、ジャンが十字軍出征で去る事で、彼女は「待つ」立場になって、彼の不在をさみしいと感じる、そこから女らしい気持が生まれる。
(ミハリチェンコが、ジャンの出征後、1幕でリュートを奏でた時、遠くの席まで寂しさが伝わってきた。)
3.もう一つは、アブデラーマン、彼に、女として求められる。強く求愛されることで、女性としての気持ちを、刺激される.
その2つのことを通じて、3幕では少し、女性として成長したライモンダになってる。
(演出技法として、1幕と3幕が同じようでいて、少しだけ主人公が成長して、1幕から変化してる、という構図は、劇では時々ある。)
ジャンを待つ寂しさだけでなく、一見、お邪魔虫の横恋慕男に見えるアブデも、何割か、彼女の心の成長に影響を与えてる、というわけ。
★以前の日記に、唐十郎の演劇の話で、「観劇した時に、意味分からなくても、後から解ってもいい」という話を書いたけど、私の場合、このバレエを見て、リアルタイムで作品を解ったのでなく。自分も、その頃、恋愛関係のことをわかってる人間ではなかったので、その時は、ただ美しいプリマに魅了されてただけ。
後になってから、何かのきっかけで、突然、”そういえば、そうだ、”と自分の実体験を顧みて、思った。
女やってると、十代とかで、「君が好きだ、すきだ、好きだーッ!!!」と言ってくる男性っているもんで、で、そういう人が皆、恋人候補になるわけでもなく、私は早熟な方ではなかったので、よく意味が分らず、スルーしてた。早熟な女性は違うかもしれないけど。
で、後から思えば、そういうのも、しかるべき相手と結ばれるプロセスの水先案内みたいな役割を果たしてたりするのかもね、と。
【夢の中の人】
脱線したけど、当時のタランダの解釈は、「悪役でも、愛は清らかなものですから。」というものだった。
作品の解説では、アブデは、愛の影の部分とか、性とかの比喩みたいなことも、書いてあった。
何より、一番違ったのが、「夢」の場面の印象。
ジャンより、アブデの方が印象的だったし、舞台の上が、ほんとに夢っぽかった。
ジャンがさらっと去ってしまった後、どこから出たのか?と思うような、怪しい登場。
今年の舞台にはなかった、危険な匂い!
それがタランダの演技力の為か、それとも照明の暗さや、演出の改変の為かは???
たぶん両方。登場の瞬間、衝撃があった。
舞台見ただけでは、怪しい危険な男、と思ったけど。
それが、セクシーでもあり、誘惑でもあるのね。(私が当時まだ、そういうことまで分ってなかった。)
ああ、ほんとに夢だ!夢そのものだ!と思って、バレエで、こんな深い表現ができるなんて!と思ったのが、今年の舞台には無かった。
今年の舞台は、夢の暗い部分、怪しげなもやもやした部分が捨象され、ひたすら甘いトーン。
実際の夢は、'88年の方が、近い。これは、残念。
【ジャンとの関係】
今年のは、最初からラブラブの関係。昔のは、そこまでではなくて、1幕から3幕の間に、うら若き乙女がだんだん女として成長する、ジャンとの関係も深まる、という表現で、もっと知的な内容だった。
【グリゴローヴィチ版の夢の場面】
グリゴロ版の夢の場って独特で、私は、この「ライモンダ」の怪しい男の出てくる性的な暗示的な夢の部分も、深い芸術性に打たれた。
さらに、もっと衝撃だったのは、グリゴローヴィチ版「ロミオとジュリエット」の、3幕のジュリエットの見る夢。
怪しげな薬を飲んだジュリエットは、悪い夢にうなされる。
舞台の上は、その、彼女の見た夢の内容。
最初は、愛しいロミオが出てきて、アダージョを踊る。夢の中のロミオは、少しだけ前より大人びた表情で、とても切ない顔をしていた。彼の愛と、彼らの先行きを暗示するように。
そして、ロミオが行ってしまい、ジュリエットがそちらを向くと、入れ替わりに、ロミオに殺されたティボルトが、赤い布を被って、ジュリエットを脅かすように踊りながら近づいてくる。
―ティボルトは、自分を殺したロミオと結ばれたいとこのジュリエットを、あの世で恨んでいる事だろう・・・。
ふっと思った。
この場面は、原作の戯曲になく、グリゴローヴィチの創作。けれど、服薬した後のジュリエットが、薬による不快な眠りの時に、いかにも見そうな夢。
”ほんとうに、実際の夢ってこんな感じだな、”と、舞台を見ながら、ひたすら感じ入っておりました。