《前回までのあらすじ》
そうだいは先日、休みを利用して親しい方々と集まっていた最中、なんとこの『長岡京エイリアン』をみているという奇特なお人から、
「あのさぁ、『ぬらりひょん』のやつ、いつまで続けるの?」
といった慈愛に満ちたお言葉を頂戴した!
言うよね~!! 言うよね~!!
あの……ハイ、ほんとにもうすこしですんで……もうちょっとガマンしていただいて……ハイ。
いやぁ、ほんとにね、この「ぬらりひょんサーガ」で扱うつもりの話題もあとわずかなんですよ。
前にも言ったのですが、最終的に『ぬらりひょんの孫』の2シーズンにわたるアニメ化にもつながっている現在2010年代の「日本の妖怪を題材にしたフィクション作品の多様化」は、もはや趣味や好みの範疇ですべてをフォローすることは不可能なほどの広がりを見せており、パッと見ですぐわかる代表的作品があったり全体的なカラーがなんとなく定まっていた、かつての1970・80・90年代各自の『ゲゲゲの鬼太郎』を主力においた「妖怪ブーム」とは別次元のものに発展しております。
我らがぬらりひょん先生が登場することがなかったので取りあげなかった作品でも、「平成仮面ライダーシリーズ」異色の傑作と賞される『仮面ライダー響鬼(ひびき)』(2005~06年放送)、畠中恵の時代小説『しゃばけ』シリーズ(2001年~)、緑川ゆきの少女マンガ『夏目友人帳』(2003年~)など、特に21世紀に入ってからは、どこかしらなにかのジャンルで日本の妖怪がからんでくる話題作が展開されている状況になっているのです。そんな流れが10年ほど続いているのですから、これはもう、ブームのような一過性のものではない「フィクションの一要素」として「妖怪」が認知されるようになったということですよね。
これは素晴らしいことです……妖怪を楽しみたいのなら、水木しげるのマンガか京極夏彦の小説を読むくらいしか手っ取りばやい手段の無かった20世紀とは、まさに隔世の感がありますなぁ。
さて、そんな21世紀の「妖怪潮流」でも、前世紀に引き続いて「名代しにせ看板」として重要な役割を果たしたのがアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』(2007~09年放送)であったわけなのですが、それが志半ばにして不本意な終結をみてしまったことはすでに触れました。
ところで、奥浩哉先生の『GANTZ 大阪編』における妖怪の位置づけは、完全に「キャラクターデザインのヴァリエーションのひとつ」だったので、作品全体に与える重要度はさほどはありませんでしたが、『大阪編』の連載開始は2006年11月からのことなので(コミックス化したのは翌2007年5月)、2007年4月に放送の始まったアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』に着想を得て奥先生が「百鬼夜行星人」を考えついたという関係はなさそうです。むしろ、2006年1月まで放送されていた『仮面ライダー響鬼』にヒントを得たんじゃないでしょうか。
う~ん、だからほぼ同時期なのに、アニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』と『GANTZ 大阪編』とで妖怪のあつかいには雲泥の差があったのねぇ。「雲泥」っつうか、『平成狸合戦ぽんぽこ』と『プライベート・ライアン』くらいの差ですよね。
「妖怪横丁とかいってのんびりしてるヤツらはこうだっ。」などという奥先生のSっ気たっぷりの悪意はなかった……と、信じたい。
え~、んで今回はですねぇ、アニメ第5期『鬼太郎』での新生青野ぬらりひょんや『GANTZ 大阪編』での最強ぬらりひょん星人といった活動と同時にぬらりひょん先生がやっていた「第3のお仕事」をあつかってみたいと思いま~す。
これもまた、他の作品にないぬらりひょんの違った一面が楽しめるんですが……なんか元気がねぇ!!
実写映画『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』(2008年7月 監督・本木克英 115分)
はい、これは、アニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』の放送開始にあわせて2007年4月に公開された「鬼太郎サーガ」史上初の実写劇場版『ゲゲゲの鬼太郎』(監督・本木克英 103分)の続編にあたる映画作品ですね。
「史上初の実写劇場版」と書きましたが、これは実写映画としての史上初という意味であって、「実写版」というくくりでは、すでに1985年に『月曜ドラマランド版 TVスペシャルドラマ』、87年に『オリジナルビデオ版スペシャルドラマ』が制作されていたことは前にも扱いましたね。
85年のTVドラマ版と87年のオリジナルビデオ版は、どちらもぬらりひょんを悪の大ボスに設定したアニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』の作品世界にリンクしていたため、言うまでもなく実写化されたぬらりひょん先生がラスボスとなるオリジナルストーリーが展開されていました。どちらも「和服を着たでっかい頭のおっさん妖怪」というイメージを踏襲していたのですが、TVドラマ版ではなぜかぬらりひょんがボンテージ姿のりりしい美女(演・夏樹陽子)に変身して活動していました。そういえば『GANTZ』でもスキさえあれば女性化してたしねぇ。総大将、そんな趣味あるんだ……
こんな感じで、実は「実写化された『ゲゲゲの鬼太郎』」にはなにかと縁のあるぬらりひょん先生だったのですが、約20年ぶりに実写化されることとなったウエンツ瑛士主演による21世紀の「実写版」に彼が登板したのは2作目から。
ウエンツ鬼太郎の1作目にあたる前作『ゲゲゲの鬼太郎』は、原作マンガの『天狐』(1968年7月発表)と『妖怪大裁判』(1969年1~2月発表)をもとにした物語となっていたため、ぬらりひょん一味は関係していませんでした。
私はもちろん1作目も2作目も映画館で観ているのですが、どちらも同じ監督による作品でありメインキャスティングも変わっていないものの、内容のカラーはだいぶ違ったものとなっています。
これがすなはち「ぬらりひょんがいる、いない」の違いなんじゃないかと思うんですけど、1作目はまっ黄っ黄の「カレーの王子様」みたいなあまあまのファンタジー映画で、ぬらりひょんが投入された2作目は「バーモントカレー 中辛」くらいになっていたでしょうか。違うっていってもその程度の違いですけど!
1作目と2作目のどちらもキャストは「ゲゲゲの鬼太郎」役にウエンツ瑛士(21歳)、「ねずみ男」役に大泉洋(31歳)、「猫娘」役に田中麗奈(26歳)で、監督を担当した本木克英(43歳)は『釣りバカ日誌』シリーズ諸作や『鬼太郎』2部作ののちの『鴨川ホルモー』(2009年)でも知られることとなる方でした。だから、大御所の西田敏行さんがあんな役で出てたのねぇ!
作品はメインキャストに加えて『ゲゲゲの鬼太郎』のヒロインに井上真央(20歳)、『千年呪い歌』のヒロインに北乃きい(17歳)を起用するなど話題性にも富んでおり、1作目は興行収入23億円、2作目は14億円を記録するヒット作となりました。
実写映画版の『ゲゲゲの鬼太郎』2部作は、鬼太郎ファミリーも敵妖怪勢力もおたがいに拡大化していた同時期のアニメ第5期の要素はあまり取り入れておらず、「妖怪横丁」のないゲゲゲの森の一軒家にひっそり暮らす鬼太郎父子に仲間がパラパラ、といった雰囲気はより原作マンガに近いものとなっています。
だいたいのキャラクター設定は原作マンガといっしょなのですが、それまでの1980年代の実写ドラマ2作と違って、鬼太郎が子役でなく立派な大人の青年になっているためか、年齢に関して鬼太郎が350歳、ねずみ男が1000歳、猫娘が400歳というオリジナル設定になっています。
原作マンガでは鬼太郎は1954年生まれ、猫娘は1953年生まれで、ねずみ男は「自称360歳」なのですが、「鬼太郎誕生」にまつわる戦後のエピソードが省略されているんですな。そこはしょってどうすんの……
ちなみに1作目の公開当時には、原作と違ってウエンツ鬼太郎の両目がパッチリあいていることも物議をかもしていましたが、ウエンツ鬼太郎も原作と同じで右目しか見えないものの、常に左目に義眼をつけているというフォローがのちに2作目でなされていました。まぁ、どうでもいいっすっけど!
いちおうの悪役はいたものの、全体的に牧歌的な雰囲気がただよっていた1作目と違って、2作目の『千年呪い歌』はおどろおどろしいそのサブタイトルからもおわかりの通り、「人間と妖怪といった異種族どうしが平和に共存できる世界は来るのか?」という重いテーマをメインにすえたダークでホラーな作品となっています。
原作マンガを再構成して作っていた1作目にたいして、『千年呪い歌』はぬらりひょん一味を正真正銘の敵役にすえた原作にないオリジナル脚本となっており、脚本を担当した沢村光彦はかつての大ヒット実写妖怪映画『妖怪大戦争』(2005年)の共同脚本も手がけていた方です。
この『千年呪い歌』に登場した妖怪ぬらりひょん(演・緒形拳70歳)は、人間に恨みを持つ妖怪「濡れ女ナミ」をだまして利用するといういつもの手口で悪事をはたき、手下の妖怪としては「蛇骨婆(演・佐野史郎53歳)」「韓国からやってきた無意味にイケメンな夜叉」「CG がしゃどくろ」「手の目」「さとり」を擁しています。
この作品での蛇骨婆の重要度は大きく、ぬらりひょんの片腕にして鬼太郎ファミリーの砂かけ婆の終生のライヴァルという誰が喜ぶのかさっぱりわからない「おばば頂上対決」を展開してくれるのですが、もともと大の『ゲゲゲの鬼太郎』好きで知られる佐野さんがその愛ゆえに熱演すれば熱演するほど、「水木しげるワールド」からどんどん離れて「漫☆画太郎のババアゾ~ン」に近づいていくという悲劇が。バァちゃん、くどいよ!
まぁなんだかんだ思うことはあるんですけど、私がこのぬらりひょん一味の実写化について声を大にして叫びたいのは、これだけですよね。
朱の盤がいねぇじゃねぇか……
私は、これは大変な失態だと思うんですよ。
そりゃあなた、確かに水木先生の原作マンガには朱の盤はいっさい登場していませんよ? 「ぬらりひょんに朱の盤」はアニメオリジナルの設定ですよ。
でもさぁ、朱の盤を出さないんだったら、ちゃんとそれなりの筋を通してぬらりひょんも「悪の親玉」になっちゃいけないでしょ! 和服じゃなくてサラリーマンみたいなスーツを着て基本1人でダイナマイトをかかえながらふらふら都会をさまよう「原作どおりのぬらりひょん」にしなきゃ。
どっちつかずは絶対にいか~ん!! 「和服を着たぬらりひょんは、ななめ後ろに朱の盤がひかえていてはじめて完成する。」という「鬼太郎サーガ」の最低限ルールを忘れているから、『千年呪い歌』は原作ファンにもアニメファンにも、前年にできたばっかりのウエンツ鬼太郎ファンにも「?」な印象を与えてしまうどっちつかずのアイウォンチュウ映画になってしまったと思うんだ、あたしゃ。「なんとなく悪そうだから。」なんていううすっぺらい理由で偉大なるぬらりひょん先生を引っぱり出さないでいただきたい。
数百年前に人間によって自分の家族を殺された妖怪「濡れ女ナミ」が、殺した人間たちなんかとっくの昔に死んでしまった現代に復活してまったく関係のない人間たちを呪い殺す「江戸のかたきをラクーンシティでうつ」的なわけのわからないストーリーラインと、その事情を聞いて涙を流してナミに謝罪するという情緒不安定としか言いようのない女子高生……そして、そんな軽~いゴメンナサイに納得して成仏してしまうナミ。なんなんだよ、このご都合主義!?
ストーリー面でもいろいろとはっきりしないモヤモヤの多い『千年呪い歌』なのですが、やっぱりなんと言ってもいちばんに挙げなければならない最大のマイナス点は、「ぬらりひょん役の迫力と怖さの欠如」でした。
いや! 私は決して、「俳優・緒形拳」全体のことを批判しているわけではありません。
とにかく、時期が悪かった。
みなさんもご存じの通り、「ギラギラといえば緒形拳。緒形拳といえばギラギラ!!」と謳われていた日本を代表する名優・緒形拳さんは、『千年呪い歌』公開のわずか3ヶ月後に肝臓ガンのために逝去されています。享年71歳。
緒形さんの俳優業に賭ける情熱は本当に死の直前まで燃え尽きることはなく、俳優としての最後の仕事はTVドラマ『風のガーデン』への出演となるのですが、数々の名作を世に残した「映画」という舞台での遺作はこの『千年呪い歌』なんですよねぇ。
緒形さんのガン闘病は2002年から始まっていたのですが、より直接的に『千年呪い歌』の撮影に支障をきたす原因となったものはどうやら、緒形さんの死後まで明らかにされることのなかった、2007年暮れの「腰椎圧迫骨折」だったようです。
老齢に加えてのガン闘病生活、そして撮影直前の時期に腰の骨折。これは映画に出演するだけでも大変なことですよ。
まぁ……緒形さんのやる気には最大限の敬意を表しますが、「妖怪総大将ぬらりひょん」としての満足のいく演技は不可能でしょう。ましてやバトルアクションなんて。
公開当時、私は緒形さんの体調などまったく知る由もなく『千年呪い歌』を観ていたのですが、びっくりするほど覇気がなく、びっくりするほど動きの少ない緒形ぬらりひょんの演技には疑念がぬぐえませんでした。
「緒形さん、撮影中によっぽど腹に据えかねることがあって演技をボイコットしちゃった? いや、それともこれは、3作目のための伏線として今回はちょろっとだけの出演という扱いになっているのだろうか……」
『千年呪い歌』でのぬらりひょんは、黒っぽい和服を着て杖をついたスタイルで、顔つきはおおむね水木しげるのイラスト「ダークぬらりひょん」に近づいた青白い&眉がうすいメイク。同時期にやっていたアニメ第5期の新生青野ぬらりひょんとは似ても似つかないものになっています。
それはそれでいいんですが、映画の中でのすべての悪の元凶であるはずのぬらりひょんは終始うす暗い洞窟の高い場所からぶつぶつ固っ苦しいセリフを発しているだけ。表情も動作もほとんどなく、ましてや鬼太郎との激しいアクションシーンなど、用意されているはずもありません。
これじゃあムリだわ。とてもじゃないですが、この『千年呪い歌』に「悪の色気」をムンムンにはなつ妖怪総大将の活躍を期待することはできませんね。
アニメのほうの『日本爆裂!!』でも全然出てくる必要のないほんのチョイ出演だったしなぁ。最近のぬらりひょん先生は映画にとんっとツキがない……
誰が悪いってわけでもないんですけど、緒形さんにとっても製作スタッフにとってもまったく「運が悪い」としか言いようのない『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』なのでありました。
いや、はっきり言って『千年呪い歌』はそれ以前に物語としてどうしようもないポイントがいくつかあるんですが、「最終的にそこさえ良かったらなんとかなる!」と目されていた緒形ぬらりひょんに重大な問題が生じていたということが致命的だったんですね。
なんとも声のかけようがない残念な『千年呪い歌』。
みなさん、もしお時間があったら、同じ妖怪映画・同じぬらりひょんつながりであるはずの『妖怪大戦争』とこの『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』とを見比べてみていただきたい。
いい映画づくりに必要なのは一体なんなのか。技術? 予算? 才能?
いやいや私、いちばん大切なのは「運」なんじゃないかと思うんですね~。
みなさん、どんなお仕事でも「いいめぐりあわせ」に出逢えるように日々がんばってまいりましょ~。
……やっぱ、朱の盤は大事だわ。
そうだいは先日、休みを利用して親しい方々と集まっていた最中、なんとこの『長岡京エイリアン』をみているという奇特なお人から、
「あのさぁ、『ぬらりひょん』のやつ、いつまで続けるの?」
といった慈愛に満ちたお言葉を頂戴した!
言うよね~!! 言うよね~!!
あの……ハイ、ほんとにもうすこしですんで……もうちょっとガマンしていただいて……ハイ。
いやぁ、ほんとにね、この「ぬらりひょんサーガ」で扱うつもりの話題もあとわずかなんですよ。
前にも言ったのですが、最終的に『ぬらりひょんの孫』の2シーズンにわたるアニメ化にもつながっている現在2010年代の「日本の妖怪を題材にしたフィクション作品の多様化」は、もはや趣味や好みの範疇ですべてをフォローすることは不可能なほどの広がりを見せており、パッと見ですぐわかる代表的作品があったり全体的なカラーがなんとなく定まっていた、かつての1970・80・90年代各自の『ゲゲゲの鬼太郎』を主力においた「妖怪ブーム」とは別次元のものに発展しております。
我らがぬらりひょん先生が登場することがなかったので取りあげなかった作品でも、「平成仮面ライダーシリーズ」異色の傑作と賞される『仮面ライダー響鬼(ひびき)』(2005~06年放送)、畠中恵の時代小説『しゃばけ』シリーズ(2001年~)、緑川ゆきの少女マンガ『夏目友人帳』(2003年~)など、特に21世紀に入ってからは、どこかしらなにかのジャンルで日本の妖怪がからんでくる話題作が展開されている状況になっているのです。そんな流れが10年ほど続いているのですから、これはもう、ブームのような一過性のものではない「フィクションの一要素」として「妖怪」が認知されるようになったということですよね。
これは素晴らしいことです……妖怪を楽しみたいのなら、水木しげるのマンガか京極夏彦の小説を読むくらいしか手っ取りばやい手段の無かった20世紀とは、まさに隔世の感がありますなぁ。
さて、そんな21世紀の「妖怪潮流」でも、前世紀に引き続いて「名代しにせ看板」として重要な役割を果たしたのがアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』(2007~09年放送)であったわけなのですが、それが志半ばにして不本意な終結をみてしまったことはすでに触れました。
ところで、奥浩哉先生の『GANTZ 大阪編』における妖怪の位置づけは、完全に「キャラクターデザインのヴァリエーションのひとつ」だったので、作品全体に与える重要度はさほどはありませんでしたが、『大阪編』の連載開始は2006年11月からのことなので(コミックス化したのは翌2007年5月)、2007年4月に放送の始まったアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』に着想を得て奥先生が「百鬼夜行星人」を考えついたという関係はなさそうです。むしろ、2006年1月まで放送されていた『仮面ライダー響鬼』にヒントを得たんじゃないでしょうか。
う~ん、だからほぼ同時期なのに、アニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』と『GANTZ 大阪編』とで妖怪のあつかいには雲泥の差があったのねぇ。「雲泥」っつうか、『平成狸合戦ぽんぽこ』と『プライベート・ライアン』くらいの差ですよね。
「妖怪横丁とかいってのんびりしてるヤツらはこうだっ。」などという奥先生のSっ気たっぷりの悪意はなかった……と、信じたい。
え~、んで今回はですねぇ、アニメ第5期『鬼太郎』での新生青野ぬらりひょんや『GANTZ 大阪編』での最強ぬらりひょん星人といった活動と同時にぬらりひょん先生がやっていた「第3のお仕事」をあつかってみたいと思いま~す。
これもまた、他の作品にないぬらりひょんの違った一面が楽しめるんですが……なんか元気がねぇ!!
実写映画『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』(2008年7月 監督・本木克英 115分)
はい、これは、アニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』の放送開始にあわせて2007年4月に公開された「鬼太郎サーガ」史上初の実写劇場版『ゲゲゲの鬼太郎』(監督・本木克英 103分)の続編にあたる映画作品ですね。
「史上初の実写劇場版」と書きましたが、これは実写映画としての史上初という意味であって、「実写版」というくくりでは、すでに1985年に『月曜ドラマランド版 TVスペシャルドラマ』、87年に『オリジナルビデオ版スペシャルドラマ』が制作されていたことは前にも扱いましたね。
85年のTVドラマ版と87年のオリジナルビデオ版は、どちらもぬらりひょんを悪の大ボスに設定したアニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』の作品世界にリンクしていたため、言うまでもなく実写化されたぬらりひょん先生がラスボスとなるオリジナルストーリーが展開されていました。どちらも「和服を着たでっかい頭のおっさん妖怪」というイメージを踏襲していたのですが、TVドラマ版ではなぜかぬらりひょんがボンテージ姿のりりしい美女(演・夏樹陽子)に変身して活動していました。そういえば『GANTZ』でもスキさえあれば女性化してたしねぇ。総大将、そんな趣味あるんだ……
こんな感じで、実は「実写化された『ゲゲゲの鬼太郎』」にはなにかと縁のあるぬらりひょん先生だったのですが、約20年ぶりに実写化されることとなったウエンツ瑛士主演による21世紀の「実写版」に彼が登板したのは2作目から。
ウエンツ鬼太郎の1作目にあたる前作『ゲゲゲの鬼太郎』は、原作マンガの『天狐』(1968年7月発表)と『妖怪大裁判』(1969年1~2月発表)をもとにした物語となっていたため、ぬらりひょん一味は関係していませんでした。
私はもちろん1作目も2作目も映画館で観ているのですが、どちらも同じ監督による作品でありメインキャスティングも変わっていないものの、内容のカラーはだいぶ違ったものとなっています。
これがすなはち「ぬらりひょんがいる、いない」の違いなんじゃないかと思うんですけど、1作目はまっ黄っ黄の「カレーの王子様」みたいなあまあまのファンタジー映画で、ぬらりひょんが投入された2作目は「バーモントカレー 中辛」くらいになっていたでしょうか。違うっていってもその程度の違いですけど!
1作目と2作目のどちらもキャストは「ゲゲゲの鬼太郎」役にウエンツ瑛士(21歳)、「ねずみ男」役に大泉洋(31歳)、「猫娘」役に田中麗奈(26歳)で、監督を担当した本木克英(43歳)は『釣りバカ日誌』シリーズ諸作や『鬼太郎』2部作ののちの『鴨川ホルモー』(2009年)でも知られることとなる方でした。だから、大御所の西田敏行さんがあんな役で出てたのねぇ!
作品はメインキャストに加えて『ゲゲゲの鬼太郎』のヒロインに井上真央(20歳)、『千年呪い歌』のヒロインに北乃きい(17歳)を起用するなど話題性にも富んでおり、1作目は興行収入23億円、2作目は14億円を記録するヒット作となりました。
実写映画版の『ゲゲゲの鬼太郎』2部作は、鬼太郎ファミリーも敵妖怪勢力もおたがいに拡大化していた同時期のアニメ第5期の要素はあまり取り入れておらず、「妖怪横丁」のないゲゲゲの森の一軒家にひっそり暮らす鬼太郎父子に仲間がパラパラ、といった雰囲気はより原作マンガに近いものとなっています。
だいたいのキャラクター設定は原作マンガといっしょなのですが、それまでの1980年代の実写ドラマ2作と違って、鬼太郎が子役でなく立派な大人の青年になっているためか、年齢に関して鬼太郎が350歳、ねずみ男が1000歳、猫娘が400歳というオリジナル設定になっています。
原作マンガでは鬼太郎は1954年生まれ、猫娘は1953年生まれで、ねずみ男は「自称360歳」なのですが、「鬼太郎誕生」にまつわる戦後のエピソードが省略されているんですな。そこはしょってどうすんの……
ちなみに1作目の公開当時には、原作と違ってウエンツ鬼太郎の両目がパッチリあいていることも物議をかもしていましたが、ウエンツ鬼太郎も原作と同じで右目しか見えないものの、常に左目に義眼をつけているというフォローがのちに2作目でなされていました。まぁ、どうでもいいっすっけど!
いちおうの悪役はいたものの、全体的に牧歌的な雰囲気がただよっていた1作目と違って、2作目の『千年呪い歌』はおどろおどろしいそのサブタイトルからもおわかりの通り、「人間と妖怪といった異種族どうしが平和に共存できる世界は来るのか?」という重いテーマをメインにすえたダークでホラーな作品となっています。
原作マンガを再構成して作っていた1作目にたいして、『千年呪い歌』はぬらりひょん一味を正真正銘の敵役にすえた原作にないオリジナル脚本となっており、脚本を担当した沢村光彦はかつての大ヒット実写妖怪映画『妖怪大戦争』(2005年)の共同脚本も手がけていた方です。
この『千年呪い歌』に登場した妖怪ぬらりひょん(演・緒形拳70歳)は、人間に恨みを持つ妖怪「濡れ女ナミ」をだまして利用するといういつもの手口で悪事をはたき、手下の妖怪としては「蛇骨婆(演・佐野史郎53歳)」「韓国からやってきた無意味にイケメンな夜叉」「CG がしゃどくろ」「手の目」「さとり」を擁しています。
この作品での蛇骨婆の重要度は大きく、ぬらりひょんの片腕にして鬼太郎ファミリーの砂かけ婆の終生のライヴァルという誰が喜ぶのかさっぱりわからない「おばば頂上対決」を展開してくれるのですが、もともと大の『ゲゲゲの鬼太郎』好きで知られる佐野さんがその愛ゆえに熱演すれば熱演するほど、「水木しげるワールド」からどんどん離れて「漫☆画太郎のババアゾ~ン」に近づいていくという悲劇が。バァちゃん、くどいよ!
まぁなんだかんだ思うことはあるんですけど、私がこのぬらりひょん一味の実写化について声を大にして叫びたいのは、これだけですよね。
朱の盤がいねぇじゃねぇか……
私は、これは大変な失態だと思うんですよ。
そりゃあなた、確かに水木先生の原作マンガには朱の盤はいっさい登場していませんよ? 「ぬらりひょんに朱の盤」はアニメオリジナルの設定ですよ。
でもさぁ、朱の盤を出さないんだったら、ちゃんとそれなりの筋を通してぬらりひょんも「悪の親玉」になっちゃいけないでしょ! 和服じゃなくてサラリーマンみたいなスーツを着て基本1人でダイナマイトをかかえながらふらふら都会をさまよう「原作どおりのぬらりひょん」にしなきゃ。
どっちつかずは絶対にいか~ん!! 「和服を着たぬらりひょんは、ななめ後ろに朱の盤がひかえていてはじめて完成する。」という「鬼太郎サーガ」の最低限ルールを忘れているから、『千年呪い歌』は原作ファンにもアニメファンにも、前年にできたばっかりのウエンツ鬼太郎ファンにも「?」な印象を与えてしまうどっちつかずのアイウォンチュウ映画になってしまったと思うんだ、あたしゃ。「なんとなく悪そうだから。」なんていううすっぺらい理由で偉大なるぬらりひょん先生を引っぱり出さないでいただきたい。
数百年前に人間によって自分の家族を殺された妖怪「濡れ女ナミ」が、殺した人間たちなんかとっくの昔に死んでしまった現代に復活してまったく関係のない人間たちを呪い殺す「江戸のかたきをラクーンシティでうつ」的なわけのわからないストーリーラインと、その事情を聞いて涙を流してナミに謝罪するという情緒不安定としか言いようのない女子高生……そして、そんな軽~いゴメンナサイに納得して成仏してしまうナミ。なんなんだよ、このご都合主義!?
ストーリー面でもいろいろとはっきりしないモヤモヤの多い『千年呪い歌』なのですが、やっぱりなんと言ってもいちばんに挙げなければならない最大のマイナス点は、「ぬらりひょん役の迫力と怖さの欠如」でした。
いや! 私は決して、「俳優・緒形拳」全体のことを批判しているわけではありません。
とにかく、時期が悪かった。
みなさんもご存じの通り、「ギラギラといえば緒形拳。緒形拳といえばギラギラ!!」と謳われていた日本を代表する名優・緒形拳さんは、『千年呪い歌』公開のわずか3ヶ月後に肝臓ガンのために逝去されています。享年71歳。
緒形さんの俳優業に賭ける情熱は本当に死の直前まで燃え尽きることはなく、俳優としての最後の仕事はTVドラマ『風のガーデン』への出演となるのですが、数々の名作を世に残した「映画」という舞台での遺作はこの『千年呪い歌』なんですよねぇ。
緒形さんのガン闘病は2002年から始まっていたのですが、より直接的に『千年呪い歌』の撮影に支障をきたす原因となったものはどうやら、緒形さんの死後まで明らかにされることのなかった、2007年暮れの「腰椎圧迫骨折」だったようです。
老齢に加えてのガン闘病生活、そして撮影直前の時期に腰の骨折。これは映画に出演するだけでも大変なことですよ。
まぁ……緒形さんのやる気には最大限の敬意を表しますが、「妖怪総大将ぬらりひょん」としての満足のいく演技は不可能でしょう。ましてやバトルアクションなんて。
公開当時、私は緒形さんの体調などまったく知る由もなく『千年呪い歌』を観ていたのですが、びっくりするほど覇気がなく、びっくりするほど動きの少ない緒形ぬらりひょんの演技には疑念がぬぐえませんでした。
「緒形さん、撮影中によっぽど腹に据えかねることがあって演技をボイコットしちゃった? いや、それともこれは、3作目のための伏線として今回はちょろっとだけの出演という扱いになっているのだろうか……」
『千年呪い歌』でのぬらりひょんは、黒っぽい和服を着て杖をついたスタイルで、顔つきはおおむね水木しげるのイラスト「ダークぬらりひょん」に近づいた青白い&眉がうすいメイク。同時期にやっていたアニメ第5期の新生青野ぬらりひょんとは似ても似つかないものになっています。
それはそれでいいんですが、映画の中でのすべての悪の元凶であるはずのぬらりひょんは終始うす暗い洞窟の高い場所からぶつぶつ固っ苦しいセリフを発しているだけ。表情も動作もほとんどなく、ましてや鬼太郎との激しいアクションシーンなど、用意されているはずもありません。
これじゃあムリだわ。とてもじゃないですが、この『千年呪い歌』に「悪の色気」をムンムンにはなつ妖怪総大将の活躍を期待することはできませんね。
アニメのほうの『日本爆裂!!』でも全然出てくる必要のないほんのチョイ出演だったしなぁ。最近のぬらりひょん先生は映画にとんっとツキがない……
誰が悪いってわけでもないんですけど、緒形さんにとっても製作スタッフにとってもまったく「運が悪い」としか言いようのない『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』なのでありました。
いや、はっきり言って『千年呪い歌』はそれ以前に物語としてどうしようもないポイントがいくつかあるんですが、「最終的にそこさえ良かったらなんとかなる!」と目されていた緒形ぬらりひょんに重大な問題が生じていたということが致命的だったんですね。
なんとも声のかけようがない残念な『千年呪い歌』。
みなさん、もしお時間があったら、同じ妖怪映画・同じぬらりひょんつながりであるはずの『妖怪大戦争』とこの『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』とを見比べてみていただきたい。
いい映画づくりに必要なのは一体なんなのか。技術? 予算? 才能?
いやいや私、いちばん大切なのは「運」なんじゃないかと思うんですね~。
みなさん、どんなお仕事でも「いいめぐりあわせ」に出逢えるように日々がんばってまいりましょ~。
……やっぱ、朱の盤は大事だわ。