ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

サピエンス前戯

2020-11-29 11:53:30 | 読書
 木下古栗『サピエンス前戯』




 タイトルの「前戯」に注意がいってしまい、またエロい小説かと思っただけで、『サピエンス前戯』の意味を深く考えなかった。

 冒頭数ページを読み、本に挟んである広告「出版のご案内」を手にして、やっと気づいた。そこにはユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』が掲載されている。『サピエンス前戯』は『サピエンス全史』をもじったものなのだ。

 この広告は偶然なのか、それとも編集者が仕組んだ遊びなのか。

 実在する名著のタイトルを、エロく変換するのはこれだけではない。小説の中でなんと130もの名作をポルノ風に言い換えている。

 しかもその作業は、2人の編集者が仕事として真剣に取り組むいう設定で書かれている。寝ても覚めても、四六時中考え続けて捻り出す。

 出来上がったリストを読んでいくと、その変換ぶりに圧倒される。卑猥な言葉をこれほどしっかり味わったことはない。

 
 この本には3編の長編小説が入っている。

 どれも基底にはエロが流れている。

 真面目に進行しているのに、そのうちエロが出てくるはずだという緊張を感じてしまう。笑ってはいけない場面で可笑しくなってしまうようなものだ。

 なぜ、これほどまでにくだらなく、ためにならなず、感涙にむせぶわけでもない小説を、ぼくは好んで読んでいるのか。

 たぶん、言葉の持つ面白さを示し楽しませてくれるからだろう。


 表紙は、巨大隕石が衝突する直前の地球。

 恐竜の絶滅、人類の誕生を連想させるが、何かエロいことにこじつけてみたくなるのは仕方がない。

 
 装丁は川名潤氏。(2020)



エレホン

2020-11-08 11:58:54 | 読書
 サミュエル・バトラー『エレホン』





 カバーの真ん中に四角い穴がくり抜かれ、表紙に印刷された絵が見えている。絵の周囲には金色の額縁があり、真っ黒なカバーの中に浮かび上がる様は、かつて権勢を誇った貴族の豪邸にいる気分にさせる。

 英語のタイトル、著者名なども金色で統一されていて、重厚だがやや時代がかっている。

 絵が気になるのでカバーをめくってみる。

 現れた絵は、カバーの穴から見えていた緑豊かな風景とは違い戸惑う。この絵を使った意味を考えながら読み始めた。


 祖国イギリスを離れ、金持ちになることを夢見て入植地で牧畜をする青年。さらに新しい土地を求め、川を遡り、険しい峡谷を進んでいく。氷河から流れ出る濁流の迫力、冒険の描写に、ぼくはしばらく夢中になる。

 たどり着いたところは未開の地ではなく、かつて高度な文明を持っていたエレホン国。捕らえられた青年は、その国の言葉を覚え、少し変わったしきたりに慣れようと努力をする。


 1872年にイギリスで出版されたこの小説は、2020年の現代を反映させたかのような記述がある。著者が未来を見据えて書いたのか、それとも当時のイギリスを書いたら現代に通じる風刺になってしまったのかはわからない。

 エレホン国の法律や考え方は理解しにくく、ギャグなのかと可笑しくなったりもするが、わからないでもない部分もある。

 ただ小説として書かれているはずなのに、その説明が論文のようでちょっと退屈することもあった。


 装丁は新潮社装幀室。(2020)