小松左京『復活の日』
新型コロナウイルスとの関わりは1年におよび、日常の中で感染対策を考え行動することが普通になった。
過去に書かれたパンデミックを扱った小説が次々と復刊され、最近は目新しさもなくなってきた。それでもつい手が伸びるのは、そこにまだ知らない何かが書かれていないかと考えるからだろう。虚構の中に希望を見出したいのだ。
『復活の日』が新装版になって書店に並んでいた。
最初に目についたのは帯の「人間vs新型ウイルス」。
カバーの書名は小さく、イラストに埋もれるように入っている。帯を外してみると、漫画を思わせる表紙で、古い小説が新しく生まれ変わった感じがする。
ここに登場するウイルスは感染力が強く、異常に致死率が高い。症状がインフルエンザに似ていて、油断しているうちに突然死んでしまう。
市井の人とウイルスとの戦いは、この物語の中では主要なテーマになっていないため、個人でできる対策は何も見えてこない。
その意味では、新型コロナウイルス対策の参考にはならない。
1964年に出版された小説と、2021年の現実とを比較して、共通点を探すことには意味がないだろう。
世界中の人々があっけなく死んでしまう小説の展開は、単純に娯楽として楽しむ方がいい。
閉塞感を伴うパンデミックの渦中にいると、コロナより恐ろしい架空のウイルスの物語は、しばし現実を忘れるほど強烈なのだ。
装画は星野勝之氏、装丁は川谷康久氏。(2021)