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ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

復活の日

2021-04-25 19:39:32 | 読書
 小松左京『復活の日』




 新型コロナウイルスとの関わりは1年におよび、日常の中で感染対策を考え行動することが普通になった。

 過去に書かれたパンデミックを扱った小説が次々と復刊され、最近は目新しさもなくなってきた。それでもつい手が伸びるのは、そこにまだ知らない何かが書かれていないかと考えるからだろう。虚構の中に希望を見出したいのだ。


 『復活の日』が新装版になって書店に並んでいた。

 最初に目についたのは帯の「人間vs新型ウイルス」。

 カバーの書名は小さく、イラストに埋もれるように入っている。帯を外してみると、漫画を思わせる表紙で、古い小説が新しく生まれ変わった感じがする。


 ここに登場するウイルスは感染力が強く、異常に致死率が高い。症状がインフルエンザに似ていて、油断しているうちに突然死んでしまう。

 市井の人とウイルスとの戦いは、この物語の中では主要なテーマになっていないため、個人でできる対策は何も見えてこない。

 その意味では、新型コロナウイルス対策の参考にはならない。

 1964年に出版された小説と、2021年の現実とを比較して、共通点を探すことには意味がないだろう。

 世界中の人々があっけなく死んでしまう小説の展開は、単純に娯楽として楽しむ方がいい。

 閉塞感を伴うパンデミックの渦中にいると、コロナより恐ろしい架空のウイルスの物語は、しばし現実を忘れるほど強烈なのだ。


 装画は星野勝之氏、装丁は川谷康久氏。(2021)


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グッバイ、コロンバス

2021-04-18 15:08:38 | 読書
 フィリップ・ロス『グッバイ、コロンバス』




 レトロな雰囲気の表紙を見て、何年か前に出版された本かと思ってしまったが、実は新しい。

 最初にこの小説が出版された1950~60年代のアメリカへ、表紙のスリム・アーロンズの写真が導いてくれる。写真を囲む薄いエメラルドグリーン、赤茶色、白の配色が、時代感を引き立てる。

 当時のことは実体験としては知らないのに、ノスタルジーを伴う表紙に、物語への期待が膨らむ。

 しかし、2021年にこの小説を読むと、様々なことが変わって読みにくくなっていることを知る。

 翻訳は新しく、文章に違和感はない。微かな疑問を覚えるのは、大袈裟にいえば人種差別的であり男尊女卑的。

 恋をして、自分でもどうすることもできない自分の気持ちと行動に嫌気がさすことはある。主人公の青年にもそんな部分はあるが、身勝手なのは恋だけが原因ともいえない。

 青年のことを好ましく思えないのは、彼が未熟だからか、それともぼくが大人ではないからなのか。


 装丁は緒方修一氏。(2021)


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歌え、葬られぬ者たちよ、歌え

2021-04-10 19:04:43 | 読書
 ジェスミン・ウォード『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』





 墨絵を思わせる1本の黒い木がカバーに描かれている。

 複雑に伸びた枝に葉は見当たらず、英語のタイトルがまるで枝の一部のように入っている。

 寒々しい。

 日本語のタイトルが金色に光り、一見華やかだが、ここに漂うよそよそしさと禍々しさが、死のイメージを呼ぶ。

 読み進めると、カバーの木の意味を知るし、この本の表紙としてふさわしいと思うのだが、手に取ったときに歓迎されている感じがしなかった。


 物語は、ヤギの場面から始まる。無駄のない荒々しい描写に、年配の男が書いたのだろうかと思ってしまった。

 祖父母に育てられている13歳の少年と幼い妹。

 両親は親として無能で、人間として無様だ。

 少年は幼くして自立しなくてはいけない。彼にぴたりとくっついて離れない妹を守るためにも。

 真っ赤に熱せられた鉄のような小説だ。

 読むだけで火傷を負わされてしまう。心に切り込み、傷ができる。少年の痛みを、ぼくも抱えてしまう。


 装丁は水崎真奈美氏。(2021)


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