ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

ブッチャーズ・クロッシング

2018-11-30 19:14:01 | 読書
ジョン・ウィリアムズ『ブッチャーズ・クロッシング』





 同じ著者の『ストーナー』の隣りに並べると、似た表紙だが、どことなく印象が違う。

 よく見ると、タイトルや著者名などの書体は同じ。

 しかし、一番大きい英語タイトルの『BUTCHER’S CROSSING』の書体が『STONER』とは異なっていて、その差が印象を変えているのかもしれない。

 違う本なので、もちろんタイトルは異なるし、訳者も変わり、使われている画像も別で配置も同じではない。

 『ストーナー』が静かな物語を表しているとしたら、この本は猛々しさ。

 表紙の、乾いた木の画像は、読後、焚き火を連想させ、パッと燃え上がる瞬間を待っているかのようだ。



 武骨な男たちの、バッファロー狩りの話。

 残酷で過酷、その丁寧な描写に圧倒される。

 『ストーナー』に続き、この読書も忘れられない大切な時間になった。

 装丁は水崎真奈美氏。(2018)


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ストーナー

2018-11-28 18:54:59 | 読書
ジョン・ウィリアムズ『ストーナー』





 空気が感じられる。

 かすかな匂いがある。

 それはたぶん自分が好きなものだ。

 たとえば書店。和紙専門店。

 心地よい香りが、いつのまにか気分をリラックスさせているように、気づくと、心の中に小説の世界が入ってきている。

 この小説は、語り続けなくてはいけない。

 書店はこの本を常備すべきだ。


 カバーの紙の手触り、そこにかすかに見える、本の形をしたオブジェ、タイトル文字の凹凸、その深い墨。

 すべてが忘れがたい、大切なものとして記憶される。

 装丁は水崎真奈美氏。(2017)
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すらすら読める方丈記

2018-11-26 18:36:10 | 読書
中野孝次『すらすら読める方丈記』





 あ、これは欲しい。

 書店で吸い寄せられた本。

 読まないまま、ときどき表紙を眺めていた。いいなあ、この雰囲気。


 読んでみた。

 いいなあ、鴨長明。声に出して読んでみると、口の中で文章が転がっていく。

 中野氏の解説も、力が抜けていてほっとする。

 それらの文章に丁度いい、表紙の脱力感。


 カバーデザインは大岡善直氏(next door design)。(2014)
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アイリーンはもういない

2018-11-23 19:47:44 | 読書
オテッサ・モシュフェグ『アイリーンはもういない』





 愛される人がいる。泣いても怒っても、失敗しても許されてしまう人。

 一方で、誰からも気にされない人もいる。たぶん、こっちの方が多い。


 アイリーンは気にされない。いてもいなくてもわからない。

 本人はそう思っている。

 そんな彼女の前に、愛される同僚が現れる。奇妙なことに、アイリーンを気にかける。

 
 悪意に満ちた世界。

 アイリーンはそう感じている。だから、読んでいて気が抜けない。同僚の真意はなんだろう。


 老齢になったアイリーンが、若いときのことを語る形になっている。

 その年まで、彼女は無事なのだ。

 さまざな経験を重ね、冷静に若い自分を見つめている。

 でも、どうやって嫌悪している自分から抜け出したのだろう。


 肝心なところは語られない。

 いまいる場所から逃げ出せば、すべてが一新されると言っているようにも読める。 

 どこにいても、自分自身が変わらなければ、周りも変わらない。

 年を重ねるなかで、アイリーンはそのことに気づいたのだろうか。

 装画は牛島孝氏、装丁は早川書房デザイン室。(2018)
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君を失って、言葉が生まれた

2018-11-21 21:55:40 | 読書
藤川幸之助『君を失って、言葉が生まれた』





 この本は、買ってすぐに開いたけれど、読み進められなかった。

 読まないことで、時間を止めてしまいたかった。

 そのまま何年も過ぎてしまった。


 
 癌で妻を亡くした男の言葉。

 そばにいたのに、ちゃんと見ていなかった。

 いつでも言えると思って、優しい言葉をかけてあげなかった。

 そして、いつの間にか別れの日が近づいていた。



 再びページをめくる。

 著者の悔やむ気持ちが押し寄せてくる。

 自分が別れを目の前にしているように感じる。

 本から顔をあげるのだ、周りの人をしっかり見るのだ、愛するのだ。

 別れはふいにやってくるかもしれない。



 表紙を見ているだけで、失ってしまった何かを思い出しそうになる。

 装丁は名久井直子氏、イラストは田雑芳一氏。(2014)







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