ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

銀河の果ての落とし穴

2020-01-19 11:23:57 | 読書
エトガル・ケレット『銀河の果ての落とし穴』





 カバーのイラストがとても綺麗だ。

 宇宙空間にいる宇宙飛行士の顔。

 見つめる先にあるのは地球なのか。

 タイトル、著者名などの文字はすべて斜めに置かれ、浮遊感が漂う。

 帯を外すと、ほかの天体から届いた文字のように見えるヘブライ語が、遠く離れた世界を感じさせる。

 
 でもSFだけの短編集ではない。

 身近な地球での物語。

 アメリカだったり、イスラエルだったり。

 とても短く、あっという間、一瞬にして通り過ぎていくような物語もある。

 バラバラの物語だが、共通するものがあるようにも感じる。

 人と一緒にいるときの、伝わらない言葉、思い。

 すぐ隣にいても、理解できない、されないこともある。

 距離が離れていたり、文化的な背景の違いで、うまく関われないこともある。

 そんなもどかしさを、少し感じる。


 装画は矢野恵司氏、装丁は川名潤氏。(2020)  



シンコ・エスキーナス街の罠

2020-01-12 16:33:23 | 読書
マリオ・バルガス=リョサ『シンコ・エスキーナス街の罠』





 血で書かれたかのような赤いタイトル文字は、ところどころ滴り落ちている。

 背景の黒、赤と白の文字は、不気味さを湛えている。

 けれども、怖さを追求した感じがなくて、適度に力を緩めたような印象を受ける。

 怖いものに興味はあるけれど、本当に怖いのは冗談にならないから勘弁してくれ、そんな思いをくむかのように。

 それは、読んでみて納得する。

 本当は、とても怖い実話だけれど、実話だと言ってしまうと読めなくなるので、冗談だとかわすようなものなのだ。

 
 舞台はペルー。

 金持ちのスキャンダルと、そのネタで強請りをするゴシップ誌の編集長。

 そして殺人事件が起こる。

 全体に、大味な小説のように感じながら読んでいたが、ところどころ緊張感もあって楽しい時間だった。

 もう少し膨らませられそうな気配はあるけれど、十分かもしれない。

 何が怖いのかというと、ペルーを支配する闇の権力。

 合間に入っているエロティックな描写が緩衝材のようになり、本当にあることなのか、そうではないのか、曖昧なままになる。


 装丁は水戸部功氏。(2020)