アン・タイラー『ヴィネガー・ガール』
10年ぶりアン・タイラーの日本語訳は、「語りなおしシェイクスピア」シリーズの一冊。
『じゃじゃ馬ならし』をもとに書かれたものなので、先にシェイクスピアを読んでみた。
なんと混みいった設定なのだろう。
登場人物が多く、何度も人物説明を見てしまった。
さらに「じゃじゃ馬」を「馴らす」方法に疑問を感じる。
女性蔑視と言われても仕方がない。
アン・タイラーはこれをどう書きなおすのか。
『ヴィネガー・ガール』の主人公ケイトを「じゃじゃ馬」と呼ぶことには違和感がある。
ケイトは、教授と対立して大学を退学させられ、プリスクールで働いているが、「小さい子どもは賢くないから嫌い」と言う。
思ったことを真っ直ぐ言葉にする、行き当たりばったりの29歳。
変わり者の科学者の父と、愛嬌だけはある妹の面倒をみている。
物語は、父が画策する偽装結婚が軸になる。
優秀な研究助手ピョートルの就労ビザがやがて切れるため、娘と結婚させて永住権を取得しようとするのだ。
ケイトは、父が自分を研究に必要な駒くらいにしか考えていないと傷つくのだが、父の本心を知るにつれ心が揺れる。
ピョートルは英語をまだ使いこなせないためか、それとも外国人だからか、本心が見えにくい。
グリーンカード取得の物語は珍しくないが、アン・タイラーらしい温かい気持ちになる作品だ。
『じゃじゃ馬ならし』とは別物。
巻末にあらすじが入っているので、それを読むだけで十分かもしれない。
装画は石田加奈子氏、装丁は細野綾子氏。(2021)