ジュリア・カミニート『甘くない湖水』
少女の怒りは度を超している。
一瞬で大火になる激しい感情は、彼女が生来持っているものなのかもしれない。
思春期にありがちな理由のない苛つきだけではないだろうし、家庭環境が原因でもないだろう。
少女の父は、仕事場の落下事故で半身不随になってしまった。
不法な現場で保険がない。
腹違いの兄と双子の弟、家族6人を、母一人の働きで養っている。
テレビもない貧乏な暮らし。
母は強く、公平で正しい。手伝いに行く裕福な家庭で信頼されている。
その正義感は、子ども達にはちょっと鬱陶しい。
少女は、家族以外の人との距離の取り方がわからない。しかたがない、まだ12歳だ。
友情は未熟で思いやりに欠ける。
服のセンスが悪い(もらったものだから)、髪型がおかしい(美容院に行けず母が切ったから)、耳の形が変と言われる。
やがて少女は成長し、周囲との関係も穏やかになっていくが、彼女の中にある鬱屈したものは消えない。
彼女が感じているほど、友人たちは彼女を粗雑にしていないと思うのだが。
カバーには、勉強に疲れてノートの上で寝てしまった少女が描かれている。
本の天地を逆さまにしてみた。
穏やかな表情とは対照的に、赤い髪は燃え上がる炎のように見える。
意のままにならない自分の感情のようだ。
10代の苦しさを思い出すのだが、年を取っても感情というのはどうにもコントロールは難しい。
装画は森泉岳土氏、装丁は須田杏菜氏。(2024)