ネイサン・イングランダー『地中のディナー』
カバーのイラストと帯の文言が、ミステリアスなスパイものを想像させた。
確かにスパイが登場し、周りの人間がみな怪しく見えるミステリアスな雰囲気で始まる。
物語は、異なる時代、場所、人物を、相互の繋がりがわかりにくい形で描いていて、なかなか全体像がつかめない。
主軸となるのはイスラエルとパレスチナ。どちらが悪という書き方ではなく、読んでいてどちら側にも肩入れができない。
パレスチナ問題に関するぼくの大雑把な知識と、断片的に触れるニュースだけでは、この物語を十分に理解し、「楽しむ」ことができるのか不安だ。
酷い爆撃の映像だけが記憶に残っているためか、和平なんて望めるものなのか、ましてや敵国の人間を愛せるものなのか疑問に思う。
徐々に収束していく物語は、小説としての面白さを感じるものの、どうしても現実から遠く離れているように思えてしまう。
装画はササキエイコ氏、装丁は中村聡氏。(2021)