レイナルド・アレナス『夜明け前のセレスティーノ』
本を読んでいると眠くなる。
退屈なのではなく、リラックスして副交感神経が優位になるからだ。
特に心地いい椅子に座っていると5分と持たない。
静かなホールでクラシック音楽を聴いているときと似ている。
この小説も似ている。
音楽が流れるように、文字が流れていく。
読み初めは違った。
何が書いてあるのかよくわからなかった。
「かあちゃんが〈ぼく〉の頭を石でふたつに割ると、ひとつは駆けだし、片方はかあちゃんの前にいて、踊っている、踊っている。」
どういう状況なのだ?
やがて気づく。
文字通りの意味で読んではいけないのだと。
ただ、これはわかる。
少年は、祖父、祖母、母から暴力を受けていること。
現実の中に不意に夢のような描写が入るのは、過酷な状況から心を逃げ出させるためではないのか。
読みながら、ぼくも少年と一緒に逃げる。
音楽のように心地よいリズムを持った文章が、夢見心地にさせるのに身を任せながら。
装丁は坂野公一氏。(2023)