マシュー・ベイカー『アメリカへようこそ』
白と赤と青。アメリカ国旗の色。
ほぼこの3色で作られた印象のカバーは、シンプルでお洒落だ。
中央には赤く縁取りされた写真がある。宙に浮く7枚の扉のうち右から2番目だけが赤くて目を引く。何か意味がありそうな、なさそうな。
しかし、それよりもっと目を引くのは、本を最初に見た時から気になっているのは、帯にある著者の写真だ。
頭の半分だけを刈り上げたクセの強い風貌に、パンクな世界を想像した。
ところが13編の物語は、意外にも味わいが静かに胸に残るものばかりだった。
どの世界も独特だ。
架空の言葉を書く辞書編纂者の話「売り言葉」。実在しない言葉なのに何度か目にしているうちに、その意味が普通に理解できるようになってしまう。外国語の単語を覚えているかのようだ。つい使ってみたくなる。この気持ちは「アザリー」だとか。
「逆回転」は、死が誕生に、誕生が死になる、通常の世界とは進行が反対になっている話。逆回転の映像を見たことがあるが、たぶんあの状況に似ているのだろう。想像が追いつかず、ルールのつかめないゲームをしている気分のまま読み進めていると、ああこれはあのことかもと気づく。すると気持ちの整理がつかなくなってくる。喜びなのか悲しみのなのか。これこそ「アザリー」だ。
装丁は川添英昭氏。(2024)
アザリー…他者の苦しみに共感することにより感じる苦しみのこと。元の苦しみよりもさらに苦しい(当然辞書には載っていない言葉)
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