シャルロッテ・リンク『裏切り』
期待をしすぎると残念な思いをすることがある。
わかっていても、同じ著者の『失踪者』で最高に楽しい経験をした後に、気持ちを抑えるのは容易ではない。
ミステリーに仕組まれた謎は、一見不可解な方が面白い。
でも、突拍子もなく感じてしまうと、それまで読んできた重厚だった物語の表面が、風雨にさらされた砂山のようにもろく崩れていく。
しかし、少し崩れただけでは、この小説の面白さは、実は揺るがない。
引退した警部が惨殺され、娘のケイトがロンドンから戻ってくる。
彼女はスコットランド・ヤードの刑事だが、人とうまく接することが苦手で、刑事として優秀ではない。
彼女を案内する地元警察のケイレブはアルコールの問題を抱えている。
最初はケイトのことを気遣うが、警察の捜査に先んじて行動する彼女を次第に疎ましく感じていく。
物語は、犯人と思われる男の常軌を逸した行動を同時に追い、緊迫した展開になっていく。
読み終わり、謎が解けたあとでもページを繰ると引き込まれてしまう。
犯人を追うことだけが物語のすべてではなかったと気づくのだ。
装丁は東京創元社装幀室。(2022)