フランシス・ハーディング『影を呑んだ少女』
幽霊が出てくる物語は、夜中にトイレに行けなくなるほど怖いものより、トイレで思い出し笑いをするくらいコミカルな方がいい。
『影を呑んだ少女』に登場する幽霊は、かなり恐ろしいけれど、少し可愛かったりもする。この小説を読んだ後でも、ぼくは1人でトイレに行ける。
舞台は17世紀のイギリス。
石炭の噴煙に覆われた小さな町に暮らす10歳の少女メイクピースは、母と2人、おじ家族の世話になっている。
ある夜、母はメイクピースを古い墓地へ連れて行き、不気味な礼拝堂に彼女を閉じ込める。
耳元でうなり、泣く、死者のささやく声が彼女を苦しめる。頭をこじ開けようとしているのが感じられる。彼女は必死に耐える。
その責苦は毎月課せられる。
母が何を望んでいるのかメイクピースには理解できず、母を恨むようになる。
ここの霊たちなど序の口に過ぎないことを、その時のメイクピースはまだ知らない。
タイトルの「影を呑む」とは、霊を体内に取り込むこと。
メイクピースは、父から受け継いだ体質で霊を体に入れることができる。
憑依させるのとはちょっと違い、霊と同居するような感じだ。
彼女は、先祖たちの死にそこなった霊達を入れる器として、亡くなった父の屋敷に迎え入れられる。
やがて、イギリスを二分する戦いに巻き込まれていくメイクピース。
彼女は、霊に支配されない自分自身の人生を生きようと戦っていく。
壮大な展開の中で、少しずつ逞しく強くなっていく少女の姿が魅力的だ。
装画は牧野千穂氏、装丁は大野リサ氏。(2024)