レーモン・クノー『地下鉄のザジ』
新刊書店で表紙を見かけた時、古本? と一瞬思ってしまった。
古い雰囲気のイラストは、1966年に出版された本の挿画。手書きの日本語タイトルがその古さに調和して、最近では見かけない独特な空気を醸し出していた。
ほかの挿画も本文にちりばめられている。
フランス語の吹き出しとともに、異国感漂うタッチ。
さらに、現在の言葉とは若干香りの違う翻訳とともに、個性的な本になっている。
読み始めてしばらくは、登場人物たちの言動に馴染めない。
猥雑で活発、予測不能の行動をとる。
物語の向かう先が見えない。
やがてそれは想像の先を行き、あっという間に天空の彼方に消えてしまった。
振り回された挙句に捨てられたみたい。
この小説が書かれた1950年代の感覚、フランス語のニュアンス、それが理解できれば、何倍も楽しめるのだろう。
破茶滅茶さにただ身を委ねる、そんな楽しみ方で満足するしかない。(2021)