ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

マレー素描集

2022-07-10 22:10:40 | 読書
 アルフィアン・サアット『マレー素描集』



 カラフルな魚が、赤い風船で吊り上げられている。

 海面の少し上を、魚は自らの意思で進んでいるようにも見える。

 背景の薄い青、水の白、すべてのバランスが美しいカバーのイラスト。

 
 シンガポールに暮らす人びとの姿を描写した48の物語は、ときにたった1ページの長さしかないのだが、読んでいるうちに想像が膨らんでいくものがある。

 反対に状況がよくわからないものもあって、想像力を試されているようだ。


 シンガポールの民族構成は、外務省のデータによると中華系が76%、マレー系15%、インド系7.5%。

 小説の中では、英語を話す中華系と英語が不得手のマレー系との間に格差があって、関係に微妙な温度差を生んでいる。

 さらに宗教の違いもあるためか、お互いに本当には理解をしていない感じを受ける。

 近くにいながら遠い隣人なのだ。


 シンガポールはかつてマレーシアの一部だった。

 しかし民族構成は大きく異なり、マレーシアではマレー系がおよそ7割を占めている。

 学生の女子2人が、クアラルンプールへ遊びに行く短編がある。

 シンガポール人だという優越感を持ちながらも、誰もがマレー語を話す居心地の良さを感じている。それと出会いの可能性の高さも。

 運よく2人は、裕福で洗練された若者と知り合う。

 翌日、彼からの電話を待ちながら彼女たちは思う。

 何度もクアラルンプールへ来てしまうのは、自分たちが誰じゃないのかを知るためと。

 彼女たちのシンガポールでの生きづらさを感じてしまう。


 本の大きさは四六判より天地が18ミリ短い。

 とても短い物語ばかりなので、1行あたりの文字数を少なくするためかもしれないが、コンパクトで可愛らしい造本になっている。

 本文の紙がグレーなのも、落ち着きがあっていい。


 装丁・組版は佐々木暁氏。(2022)



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2 コメント

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Unknown (maryrose)
2022-07-12 11:48:28
学生の女の子二人のお話、とても心に響きました。素敵な本の紹介をありがとうございます☺️
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Unknown (Unknown)
2022-07-12 19:35:38
美しい本ですので、機会がありましたらお手にとってみてください。
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