シャルロッテ・リンク『失踪者』
読みながら何度本を握りしめたことだろう。
予想できない展開に、思わず手に力が入ってしまった。
下巻は、本がすっかり丸まってしまった。
田舎町で、障害のある兄の世話をして暮らすエレイン。
友人の結婚式に招待されロンドンの空港に向かうが、霧のため飛行機が欠航になる。
本当なら朝出発の便に乗るはずだったのに、妹に行って欲しくない兄が泣き崩れたため出発を遅らせたのだった。
非合理的、理解不能、共感不能で、しがみついて離れない兄から逃れる機会、何かが変わる可能性をエレインは感じていたのだ。
時代遅れのコートに安物の鞄。
翌日の便で、式にギリギリ間に合ったとしても、準備をする時間はなく、髪はボサボサ、ドレスは皺くちゃだろう。
かわいそうなエレイン、皆が言うだろう。
周辺のホテルは満室で、行く当てのない23歳のエレインは、空港のトレイの前で子どものように泣きじゃくってしまう。
そんな彼女を見かねた1人の男性が、家に泊まらないかと声をかけてくれる。
その後エレインは失踪するのだが、5年が経ち彼女の行方を調べる人間が現れる。
物語は、凄惨な殺され方をした売春婦の遺体が発見されるところから始まっていて、サイコパスの存在を読んでいる間ずっと意識させられる。
いくつかの人生がとても丁寧に語られていて、単純に失踪者を探す物語に留まらない。
装画は吉田圭子氏、装丁は内海由氏。(2022)