アン・タイラー『この道の先に、いつもの赤毛』
本の帯を外し、カバーも取る。
カバーの両端を持って机の上に広げてみると、袖まで含めた横長の一枚の絵が表れる。
まるで絵本のような温かい絵には、マイカの暮らすアパートと、彼が仕事に使う車が描かれている。
黄色く染まった街路樹の葉と、建物の赤いレンガのコントラストが美しい。
ボルティモアはこんな場所なのかと、行ってみたくなる。
40歳を越えた一人暮らしの男マイカの描写を読むと、著者はこの男を気に入っていないように感じる。
人付き合いが少なく、決まりきった単調な生活、いつも変わらない服装。
人生とは、などと考えることはあるだろうかと。
さらに半地下の住居については、「住んで楽しいこともなさそうだ」と書く。
しかし、読み進めると、著者はこの男を嫌っているわけではないとわかってくる。
こんな男だけど、いやこんな男だからこそ、著者アン・タイラーは愛しているに違いない。
一方、女性に対してはかなり厳しい目を向けている。
マイカは丁寧に仕事をし、決められた日にゴミをきちんと出す。
突然現れた家出少年を家に招き、コーヒーを淹れてあげる。
なんでもない日常と、ちょっと変わった出来事。
それなりに満足な生活。
ただ、ぽっかり開いてしまった心の穴は、一人では埋められないのだった。
装画はカシワイ氏、装丁は田中久子氏。(2023)