ジェイムズ・ディッキー『救い出される』
表紙の写真には、水面とカヌーの櫂。
武骨なアウトドア小説を思わせる。
でも読み始めると、中年の男たちの、子どもじみた川下りの計画。
ちょっした冒険のようだ。
カヌーを積んだ車で、川の上流を目指すが、川に降りる場所さえなかなか見つからない。
おまけに車を預ける地元の男が、信用できるのかどうかもわからず、トラブルの予感もする。
川に乗り出しても、文明の、人の、町の匂いがまとわりついて、とても自然と遊んでいるようではない。
このちぐはぐな感じが、妙に気になる。
そして、突然の思わぬ展開。
緊張感の連続。
登場人物が入れ替わったように、雰囲気ががらりと変わる。
なんて小説だろう。
表紙の写真の背景には、森林のイラスト。
よく見ると、いくつもの目が描かれている。
後半、誰かに見られているかもしれないという疑念はずっとあって、その落ち着かない感じを思い出す。
カバーイラストは柳智之氏。(2017)