アリッサ・コール『ブルックリンの死』
カバーのイラストは、おそらくブルックリンのアパート。
玄関扉と窓に見える赤いカーテンは血を連想させる。
帯を外すと、階段に一丁の銃が置かれているのがわかり、犯罪の匂いがしてくる。
「アメリカ探偵作家クラブ賞受賞」
帯だけでなく、カバーにも小さく記載されていて、冒険に出る前のような期待感が押し寄せてくる。
読み始めてすぐにブラックアメリカの存在を知る。
19世紀末にブルックリンに実在した、奴隷制度を娯楽にしたテーマパークだ。
にわかには信じ難い、悪趣味な施設の記事を、ブルックリンに住む黒人のシドニーはネットで見つける。
奴隷制度が廃止されてたった20年後に、白人が郷愁を感じるために作られたもの。
彼女は埋もれた歴史に関心が湧き、近所を巡るツアーガイドを計画する。
シドニーの計画に、向かいの家に引っ越してきた白人のセオが手伝いを買って出る。
アグレッシブなシドニーは、セオを信用しきれないものの、微かな好意をも抱いている。
セオは人種偏見を持っていないが、「ブラック・ライブズ・マター」と書かれたTシャツを着てシドニーに咎められると、人種問題のとらえ方の違いに戸惑う。
2人の微妙な関係が好ましい。
その一方で、街中の人種間の軋みが徐々に大きくなってきている。
やがて、物語は想像を超える展開をみせ、これはもうホラーではないか。
装画は草野碧氏、装丁は早川書房デザイン室。(2022)