ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

ブルックリンの死

2022-05-26 17:37:19 | 読書
 アリッサ・コール『ブルックリンの死』



 カバーのイラストは、おそらくブルックリンのアパート。

 玄関扉と窓に見える赤いカーテンは血を連想させる。

 帯を外すと、階段に一丁の銃が置かれているのがわかり、犯罪の匂いがしてくる。

「アメリカ探偵作家クラブ賞受賞」

 帯だけでなく、カバーにも小さく記載されていて、冒険に出る前のような期待感が押し寄せてくる。


 読み始めてすぐにブラックアメリカの存在を知る。

 19世紀末にブルックリンに実在した、奴隷制度を娯楽にしたテーマパークだ。

 にわかには信じ難い、悪趣味な施設の記事を、ブルックリンに住む黒人のシドニーはネットで見つける。

 奴隷制度が廃止されてたった20年後に、白人が郷愁を感じるために作られたもの。

 彼女は埋もれた歴史に関心が湧き、近所を巡るツアーガイドを計画する。

 シドニーの計画に、向かいの家に引っ越してきた白人のセオが手伝いを買って出る。

 アグレッシブなシドニーは、セオを信用しきれないものの、微かな好意をも抱いている。

 セオは人種偏見を持っていないが、「ブラック・ライブズ・マター」と書かれたTシャツを着てシドニーに咎められると、人種問題のとらえ方の違いに戸惑う。

 2人の微妙な関係が好ましい。

 その一方で、街中の人種間の軋みが徐々に大きくなってきている。

 やがて、物語は想像を超える展開をみせ、これはもうホラーではないか。


 装画は草野碧氏、装丁は早川書房デザイン室。(2022)


読書セラピスト

2022-05-15 19:36:00 | 読書
 ファビオ・スタッシ『読書セラピスト』



 窓辺に立って本を読む男性は、たまたま手に取った本が予想外に面白く、つい読み耽ってしまったように見える。

 カバーの絵に感じるそんな雰囲気は、小説の主人公ヴィンチェの生き方と重なる。

 国語教師としてうまくいかず、試しに2か月だけ読書セラピストとして開業してみるというヴィンチェ。

 最初のクライエントは、自分の髪に悩んでいる女性。

 ヴィンチェはヘミングウェイの「移動祝祭日」を薦めるのだが、ぼくには彼が何を言っているのかちょっとわからない。

 女性は激怒し帰ってしまう。

 頭の中にさまざまな本を記憶しているというヴィンチェだが、それを上手に活用できない。
 

 文学は癒しの効果があり、読書が心の悩みを軽減させることもある。

 ただし、適切な本を見つけるのは難しい。

 医師に処方された薬が、必ずしも自分の体に合うとは限らないように、誰にでも効能が期待できる本はないだろう。

 そしてその効力は、読み解く力の有無にも左右される。


 読書セラピストとしては冴えないヴィンチェだが、ひとつの謎を解いてしまう。

 この小説はミステリーでもあるのだ。


 装画はヴィルヘルム・ハンマースホイ、装丁は柳川貴代氏。(2022)


赤い十字

2022-05-06 19:42:47 | 読書
 サーシャ・フィリペンコ『赤い十字』



 カバーの抽象的なイラストや、視点をあちこち移動させてしまう文字の配置には、何かのメッセージが込められているように感じてしまう。

 本心を隠し、伝えたいことはストレートに表現しない。

 それは、この小説の舞台となるソ連では重要なこと。


 ロシアの隣国ベラルーシの首都ミンスクへ、30歳の男性が引っ越してきた。

 集合住宅の隣人は、アルツハイマーを患っているおばあさん。

 自分のことで頭がいっぱいの男は、おばあさんにはまったく関心がないが、おばあさんは無理矢理自分の昔話を聞かせる。

 ソ連で体験した、戦時中の不可解で恐怖の日々。

 男は次第に引き込まれていく。


 80年も昔の戦争の話だ。

 ソ連がどれほど怖い国だったのかは、小説や映画の中で繰り返し触れてきたので驚きつつも、そんなところだったのだろうと、古い話として受け止められる。これが半年前に読んだのならば。

 ソ連と現在のロシアを比べてしまう。

 長い年月を経ても変わっていないことに震える。


 装画はササキエイコ氏、装丁は川名潤氏。(2022)




お知らせ

2022-05-03 19:14:16 | ハンドメイド



 パシフィコ横浜において開催されるハンドメイドマルシェに参加します。

 ヨコハマハンドメイドマルシェ2022
 https://handmade-marche.jp/

 ロビンソン・ファクトリー
 N-58
 6月4日(土)のみ参加。
 手作りの本を出品します。


 当日券1200円 前売り券1000円
 なんだ入場料を取るのか。
 友人にこの話をしたとき、そう言われた気がしました。
 招待券はないのかと。
 ありません。
 いままで、お寺の境内や学校のキャンパス内でのイベントに参加したことはありますが、巨大なイベントホールは初めてです。
 出店者数2500人、前回の入場者数13000人。

 数字を見ただけでクラクラしてきます。