ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

いかさま師ノリス

2022-02-20 15:23:15 | 読書
 クリストファー・イシャウッド『いかさま師ノリス』





 タイトルで「いかさま師」などと呼ばれてしまっては、ノリスは最初からいかがわしくて見えてしまう。

 ベルリンへ向かう列車のコンパートメントで一緒になり、煙草の火を借りようとウィリアムが声をかけたときの、ノリスのあまりの驚きよう。

 何か考えごとをしていたのか、ベストのあちこちを忙しなく探る挙動の不審さは、ノリスがいかさま師として一流ではないことを暗示している。

 あぐらをかいた大きな鼻、醜悪な歯並び、バレバレのカツラ。

 ノリスが深刻に語ろうとも、コミカルな様子が緊張が緩ませる。

 時代は、やがてナチスが台頭してくる1930年代。

 ノリスは見かけ通りの三流いかさま師なのか、それとも身に危険が及ぶほどの秘密を抱えた諜報員なのか。

 少しずつ見えてくる不穏な空気が、ノリスの可笑しさによって際立ってくる。


 表紙絵の一部が、表4、本扉などに使われていて、そこに何か隠された意味を探してしまう。

 おそらく謎などないのだろうに、表紙の人たちの視線が気になるイラストだ。


 装画は北住ユキ氏、装丁は緒方修一氏。(2022)



つむじ風

2022-02-06 15:27:12 | 読書
 梅崎春生『つむじ風』



 なんと軽妙な小説だろう。

 右に左に揺さぶられ、どこに向かうのかわからない。


 自動車に当て逃げされた青年を、浅利圭介が家に連れて帰るところから物語は始まる。

 車のナンバーを覚えていた圭介は、これをネタに運転手を強請ろうと考える。

 圭介は稼ぎがなく、妻に下宿人扱いされているほど要領が悪いのだが。


 1956年の新聞に連載された小説。

 テンポが良く、その当時新聞をとっていたら、毎日の楽しみになっただろう。


 同じナンバーの車が2台あって、圭介と青年とで手分けして探りを入れる。

 松平を名乗る青年の怪しさ、騙す話術の巧みさ、圭介のお人好し加減の可笑しさ。

 そこに、敵対する2軒の銭湯の話も絡んできて、枝葉を広げすぎだろうと思ってしまう。

 ところが、よく計算された展開の小気味好さにどっぷり浸る。


 装丁はおおうちおさむ氏。(2022)