ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

マスク

2021-01-30 15:00:02 | 読書
 菊池寛『マスク』



 表紙にマスクをした男のイラストが描かれていて、書店でとても目立っていた。

 頭の真ん中に「菊池寛」の文字。丸メガネの男は著者の似顔絵なのだ。

 帯を外すとマスクも外れる。コミカルなイラストの全貌が見える。

 表紙をめくると、そのイラストと同じ顔をした男の写真が現れる。気弱そうに感じるのは、帯に書かれた「私も、新型ウィルスは怖い。」の文字のせいだろうか。

 
 「スペイン風邪をめぐる小説集」というサブタイトルがついているが、本の半分は関連のわからない歴史小説だ。このラインナップに戸惑う。

 およそ100年前に流行ったスペイン風邪に対する人々の反応が、現代の新型コロナウィルスと似ているよね、という程度の読み方だと物足りない。

 しかし、ここには何かしら参考になるようなことはなく、ただ物哀しさが漂う。


 一番最後の一編「私の日常道徳」だけ、貂明朝で組まれている。

 古めかしいけれど、どことなく可愛らしくもある独特な書体が、「マスク」で感じられた菊池寛の雰囲気に似合っている。


 デザインは木村弥世氏、イラストは茂苅恵氏。(2021)




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ロサンゼルスへの道

2021-01-12 17:08:48 | 読書
 ジョン・ファンテ『ロサンゼルスへの道』





 父親が亡くなり、一家の稼ぎ頭として母と妹の面倒をみる18歳のアルトゥーロ。

 しかし仕事はどれも長く続かない。突然「うんざりだ」と言って辞めてしまう。

 周囲の人たちを小馬鹿にし、気取った言い回しでやたら饒舌に意味のないことを並べて煙に巻く。いや、ただうざいと思われているに過ぎない。

 まとまったものを書いたことがないのに、自分は作家だと言い、ノートを持ち歩いて何かを書いている振りまでする。

 そして妄想が凄まじい。一瞬姿を見かけただけの女性と恋愛関係になることなんてお手のもの、ある時は突然走り出してオリンピックのランナーになっている。

 なにひとつ共感できない最低な男だ。

 ところが、劣悪な環境の缶詰工場での仕事に我慢する。

 初日は、サバの強烈な匂いに胃がからになるまで吐いてしまい、そこで働く人たちから冷笑されたというのに。

 子供のいる同僚が低賃金で働いていることを知ると、昇給を訴えろと憤る。

 ここで働くことで少しは成長したのか。

 と思ったが、最後はやっぱり最低な奴なのだ。


 写真はみやこうせい氏。(2021)
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いいなづけ

2021-01-02 16:32:52 | 読書
 アレッサンドロ・マンゾーニ『いいなづけ』



 古いイタリアの小説、翻訳は絶版になっているだろうと思っていた。

 ところが、書店で河出文庫を見つけた。


 イタリア・ミラノの高校で、校長が生徒に向けたメッセージが話題になったのは、新型コロナウィルスの感染が広がってきた頃のこと。メッセージのなかで『いいなづけ』に触れている。

 
 『いいなづけ』では、ペストが蔓延するミラノの様子が描かれている。

 17世紀の話だが、現代のコロナに対する人々の反応ととても似ている。

 ただ、これは物語のほんの一部だ。

 物語の中心になるのは、タイトル「許嫁(いいなづけ)」の通り、婚約をした2人の男女。

 横恋慕、脅迫、屈従、対抗、逃走、誤解、さまざまなことが起こり、2人はなかなか結ばれない。

 登場する人物、ひとりひとりの心理が細かく描かれ、脇道にそれた感じはあるものの、それがひとつの独立した物語としても読めるくらい興味深い。


 コロナ渦で、過去に出版されたパンデミックを扱った本が復刊されている。

 そこには、自戒しなくてはならない出来事が多く書かれているが、単純に娯楽として読むだけでも面白いものもある。

 『いいなづけ』のなかで、ペストに罹患しながらも生き延び、行方不明の婚約者を探すレンツォのたくましさには、希望の光を見る。


 装丁は渋川育由氏。(2020)


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