菊池寛『マスク』
表紙にマスクをした男のイラストが描かれていて、書店でとても目立っていた。
頭の真ん中に「菊池寛」の文字。丸メガネの男は著者の似顔絵なのだ。
帯を外すとマスクも外れる。コミカルなイラストの全貌が見える。
表紙をめくると、そのイラストと同じ顔をした男の写真が現れる。気弱そうに感じるのは、帯に書かれた「私も、新型ウィルスは怖い。」の文字のせいだろうか。
「スペイン風邪をめぐる小説集」というサブタイトルがついているが、本の半分は関連のわからない歴史小説だ。このラインナップに戸惑う。
およそ100年前に流行ったスペイン風邪に対する人々の反応が、現代の新型コロナウィルスと似ているよね、という程度の読み方だと物足りない。
しかし、ここには何かしら参考になるようなことはなく、ただ物哀しさが漂う。
一番最後の一編「私の日常道徳」だけ、貂明朝で組まれている。
古めかしいけれど、どことなく可愛らしくもある独特な書体が、「マスク」で感じられた菊池寛の雰囲気に似合っている。
デザインは木村弥世氏、イラストは茂苅恵氏。(2021)