シャネル・ベンツ『おれの眼を撃った男は死んだ』
なんという色合いのカバーだろう。
黄色の背景にピンクのイラスト、赤い英語のタイトル文字。その英語をまたいで日本語タイトルが黒で入っている。
眺めていると落ち着かない。
不快ではない。
ただ言いようのない不安な気持ちになる。
帯を外してもイラストが何なのかわからない。黄色い見返しをめくり、扉を見てやっとわかる。わかった気がする。でも違う気もする。
10編の短編集。
一度読み通し、本を閉じた。ひとつひとつを思い返してみる。
スポーツカーで疾走してきたのに、思い出されるのは道端に咲いていた小さな花。そんな気分だ。
読んだ物語と、頭の中に残っているものが違う気がするのだ。
もう一度本を開く。
今度はゆっくりと歩くように読んでみる。道端に咲いている花には小さな棘があり、指先をチクリと刺される。
ダイナミックで繊細。ぼくは何か読み落としていないだろうか。
不安な気持ちが消えない。
装丁は山田英春氏。(2020)