ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

おれの眼を撃った男は死んだ

2020-10-31 11:56:41 | 読書
 シャネル・ベンツ『おれの眼を撃った男は死んだ』






 なんという色合いのカバーだろう。

 黄色の背景にピンクのイラスト、赤い英語のタイトル文字。その英語をまたいで日本語タイトルが黒で入っている。

 眺めていると落ち着かない。

 不快ではない。

 ただ言いようのない不安な気持ちになる。

 帯を外してもイラストが何なのかわからない。黄色い見返しをめくり、扉を見てやっとわかる。わかった気がする。でも違う気もする。

 
 10編の短編集。

 一度読み通し、本を閉じた。ひとつひとつを思い返してみる。

 スポーツカーで疾走してきたのに、思い出されるのは道端に咲いていた小さな花。そんな気分だ。

 読んだ物語と、頭の中に残っているものが違う気がするのだ。

 もう一度本を開く。

 今度はゆっくりと歩くように読んでみる。道端に咲いている花には小さな棘があり、指先をチクリと刺される。

 ダイナミックで繊細。ぼくは何か読み落としていないだろうか。

 不安な気持ちが消えない。


 装丁は山田英春氏。(2020)




私たちの生涯の最良の時

2020-10-11 18:45:51 | 読書
 アントーニオ・スクラーティ『私たちの生涯の最良の時』





 表紙には、石壁の写真がモノクロで全面に入っている。そのほぼ中央を左右に横切る白い線。塗り立てのペンキのように、古いものが新しくなっていく過程を想起させる。

 帯の文言で戦争時の話だとわかると、忌まわしい記憶を封じ込める塗料のようにも感じてしまう。

 白い線には著者名と翻訳者名だけが左下に小さく入っていて、何かが足りない居心地の悪さを感じる。

 タイトルは右上、石壁の上に細い明朝で並べてあり、表紙の中では目立たず、ここは本来の居場所ではなく、仮に置いているような不安定さが滲み出ている。

 
 物語は史実に忠実に、ノンフィクションのような感情を排した文章で進む。

 レオーネ・ギンツブルグは1934年、イタリアで施行されたファシズムへの宣誓義務に従わず、苦しい人生を歩むことになる。

 彼の半生と同時進行で語られるのは、おそらく著者の一族と、もう一つ別の一族の話。

 ファシズムが強まり戦争に突入し、敗戦を迎える中、市井の人々がどう生きたのか。そして著者とレオーネとの結びつきは何なのか。

 戦争の進行と、レオーネが僻地へ追いやられても仕事を続ける姿の対比には、緊迫感がある。


 これは小説のはずだ。

 だから、一番最後に著者自身の解説が入って完結するのは違和感を覚える。

 しかしこの部分を読まないと、何かが足りない居心地の悪さが残る。

 舞台裏を知らずとも、十分堪能できる物語になっただろうに。


 装丁は今垣知沙子氏。(2020)