ポール・フルネル『編集者とタブレット』
表紙には、ソファに座りタブレットを眺める女性のイラスト。
これが小説の世界を表しているものと思って読み進めたが、主人公はおじさん!
イラストは、ジャン・オノレ・フラゴナールの「読書する娘」を現代風にアレンジしたもの。
あどけない表情の少女が成長し、紙の本をタブレットに持ち替えて読書をしている。タブレットを持つ指先の形は、少女の頃と同じ。
物語は、ベテラン編集者が仕事用にiPadを与えられるところから始まる。読むべき原稿がここにすべて収められている。
タブレットとの最初の遭遇シーンがいい。
黒い外見を眺め、書類鞄のように振り回せないと思い、瀟洒なハイテク製品のようでもなく、スウェーデン家具のようでもないと感じる。そして頬をくっつけてみる。
「ひんやりと冷たく、音もたてず、皺も寄らず、よだれが染み込むこともない」
気に入ったのかと思いきや、サイズについて不満を漏らす。
気に入ったり戸惑ったりしながらタブレットと付き合っていく。
外に持って出る様子は、まるでペットを連れているかのような描写になる。
タブレットを便利に使いながらも、紙の本を読む方が好きという気持ちはよくわかる。
遠くない未来、電子の本ばかりになるとしたら、紙の本を気軽に手にできる今の状況は貴重だ。
そんな過渡期に生きていることを幸せと思いたい。
装画は柳智之氏、装丁は岡本洋平氏。(2022)