パトリック・マッケイブ『ブッチャー・ボーイ』
「いまから二十年か三十年か四十年くらいまえ、ぼくがまだほんの子どもだったときのこと」で物語は始まる。
この言い方から、これから語られることが、いかにいい加減で信用がおけないものかが推察される。
すでに中年になったフランシーが、少年時代のことを思い出している形。
しかし思考は子どものまま。
現実の出来事の合間に、フランシーの空想が混じるため、靄がかかったような世界だ。
辻褄の合わないことが表れる。
少し慎重に読んでみる。
フランシーの行動は、ぼくには理解できないことが多く、それらは妄想なのだろうと思ってしまうが、実際に行われたことらしいと見当がつくと動揺する。
時折、句読点のない文章が挟まれる。
学校へ行くことをやめてしまったフランシーの、学力の低さを思うが、同時に切羽詰まった気持ちも感じられる。
句読点がなくても読みやすいのは、翻訳の良さだろう。
フランシーは哀れで同情されるべき子どもなのか。
こんな怪物のような人間にしたのは、誰なのか。
装画はsanoooo氏、装丁は森敬太氏。(2022)