ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

オール・アメリカン・ボーイズ

2021-02-23 10:05:26 | 読書
 ジェイソン・レイノルズ
 ブレンダン・カイリー
 『オール・アメリカン・ボーイズ』




 アメリカで出版されているこの本の英語版表紙を見たとき、吐き気がするほどの怖さを感じた。

 両手を挙げる青年の後ろ姿は、正面のライトに照らされてシルエットになっている。この本を読み終えた後だと、ライトは警察車両だと想像できるし、さらにその先には銃を構えた警察官が何人もいて、少しでも動けば発砲されることもわかっている。なぜなら、彼は黒人だから。悪いことは何もやっていなくても、アメリカでは殺されてしまうことがある。


 物語は、黒人少年が白人警察官から暴行を受けたことから始まる。

 偶然その場面を見かけた白人少年と、大怪我を負った黒人少年の語りが、2人の作家によって交互に綴られていく。

 暴行場面はSNSで拡散され、2人が通う高校で警察に対する抗議のデモが計画される。

 現実の世界で、何度も同じようなニュースを見てきた。

 この小説は、現実と同じように、問題の解決には至らない。でも、容易に解決できないのだと改めて理解し、さらに考えるきっかけにはなる。


 日本語版のカバーは格好いい。イラスト、文字の扱い、色合いすべてがクールだ。持っていてもいいし、10代の友人にあげてもいい。


 イラストは岡野賢介氏、装丁はアルビレオ。(2021)




図書室の怪

2021-02-15 19:33:44 | 読書
 マイケル・ドズワース・クック『図書室の怪』




 VRを使うと、そこに存在しないものを、まるで実在するかのように見ることができるようになった。

 石垣しかないのに、スマホを通して見ると、その上にかつて存在した天守を浮かび上がらせるような不思議な体験。

 もしそこに、昔処刑された人の姿が不意に現れたりすれば、きっと取り乱す。


 ここに収められた4つの物語は、そんな怖い驚きをさせる。日常の風景に隠れている不気味なストーリーを突然見せる。

 『図書室の怪』は現代の話だが、中世に建てられた館が舞台になっている。改築を繰り返してきた図書室には何かしら秘密があり、それを当主と友人が調べていく。バールを使って重い石を移動し、当時の姿を露わにすると……。

 ひとつの場所でいくつも重なった時代の層と、同じ人間の別の顔と、それらが一気に表出して怖さを生む。丁寧な描写が、重厚感と一層の現実感を醸し出す。


 カバーデザインは山田英春氏。(2021)



目の見えない私がヘレン・ケラーにつづる怒りと愛をこめた一方的な手紙

2021-02-08 22:13:27 | 読書
ジョージナ・クリーグ『目の見えない私がヘレン・ケラーにつづる怒りと愛をこめた一方的な手紙』




 向き合って座る2人の女性。可愛らしいタッチのイラストが表紙に描かれている。

 とても長いタイトルは、読み終えてそのままの内容だとわかるのだが、イラストの雰囲気も手伝って、どこか寓話的な物語を想像した。

 「ヘレン・ケラー」とは、何かを象徴するようなものであって、本当にあのヘレン・ケラーに手紙を書く形のまま進むとは思わなかった。

 読み始めて、ぼくはヘレン・ケラーにさほど興味がないことに気づいた。しかし同時に、ぼくの持っている知識がわずかなものでしかないことが原因だともわかった。おそらく子どもの頃に読んだ偉人伝だ。

 この本の中には、偉人伝では決して書かれることのないヘレン・ケラーが出てくる。

 ただし、細部のいくつかは著者の想像だ。著者はヘレンに会ったことはなく、資料をもとにヘレンの日常を再現していく。ときには遠慮のない興味本位とも思える部分もあり、ぼくには居心地が悪い。

 これが小説のような、はっきり創作とわかるものだったら、もっと素直に受け止められたのかもしれない。

 しかし小説だと、著者がこれを書かなくてはならなかった理由がぼやけてしまうのだろう。


 デザインは名久井直子氏、イラストはfancomi氏。(2021)