ディーノ・ブッツァーティ『魔法にかかった男』
表紙いっぱいに折り返し階段の写真。
階段の中央から階下を見下ろしているものだが、じっと見ていると、果てしなく、異界に落ちていくようだ。
一般的な新書より若干大きいサイズ。
天地が短めの黒い帯が巻かれている。
その上辺に「Buzzati」と、白抜きの文字の下半分だけが大きく入っている。
帯を取ると、カバーの同じ場所にまったく同じ文字が入っている。
カバーと帯が一体になっているのだが、わずかに左右のズレがあって、文字は綺麗に重ならない。
これは仕方がないことだ。
パソコンのデータ上のようにはいかない。
印刷して折った紙がぴったりうまく重なるのは難しい。
でもそのズレがあるために、文字に奥行きが生まれている。
文字の先には、吸い込まれそうな階段がある。
イタリア人作家の短編集。
不気味で、ちょっと怖い感じの話。
恐る恐る歩いていると、突然落とし戸が大きな音を立てて閉まるような終わり方をする。
文字のない、ページの白さに戸惑う。
引き返して、もう一度読んでみる。
一体何が起きたのだろうと。
デザインは塙浩孝氏。(2019)