スティーヴン・ミルハウザー『私たち異者は』
この本の異質な雰囲気は、本を開く前から感じられる。
カバーには、誰も座っていない肱掛け椅子のイラスト。
椅子というのは、不思議と人の気配をはらむもので、人の姿がないのに、誰かがいる、またはいた感じが強い。
さらに、ピンクの帯が、青がかった緑色のカバーにしっくりこない。
表紙を開くと、見返しに帯と同じ紙が使われていて、何かにつきまとわれているような、先回りされたような気分になる。
とはいっても、このカバーと帯の組み合わせが、ありえないというわけではない。
言葉にできないモヤモヤしたものが、漂っているのだ。
もしかしたら、『私たち異者は』というタイトルと、その手書きの文字に、ぼくは翻弄されているのかもしれない。
本のタイトルになっている「私たち異者は」は、7つの短編のひとつ。
ほかの6編には、異者という言葉は使われていない。
異者とは、ここでは幽霊をさしているが、単に人ではない者、どこか違う者ととらえるならば、ほかにも異者の物語はある。
さらに異者を異質と広げるのならば、7編すべてがそうだろう。
異質なものに接しているモヤモヤした感じは、最後まで離れない。
装丁は緒方修一氏、装画は手塚リサ氏。(2019)