カウテル・アディミ『アルジェリア、シャラ通りの小さな書店』
丘の中腹に建つ日干しレンガの建物の向こうに、青い海が見える。
腰高の塀に沿った道からは、街並みが見下ろせる。
カバーの絵は、アルベール・マルケの美しい油彩。
この街のどこかに「シャラ通りの小さな書店」はあったのだろうか。
1930年代、フランス領アルジェリアで、21歳のエドモン・シャルロは、出版も行う小さな書店を開いた。
シャルロは実在した人物。
この小説は、彼の手帳から文章を抜き出すという形をとっている。
そこには、多くの作家たちと交流し、新しいアイデアを次々と出していくシャルロの姿があり、彼の文学、出版にかける熱い気持ちが伝わってくる。
それと同時に、80年後、現在の書店の状況も語られる。
書店は主人を失い、揚げ物屋に改装することが決まっており、本を廃棄するため、20歳の大学生がパリから送られてくる。
本を読まない若者。
かつてここで本を出版したカミュや、書店に名前を提供したジャン・ジオノに興味はないのだろう。
何もなくなってしまった現在の書店が特に寂しく感じられるのは、出版、本の衰退を見せられた感じがするからだ。
戦争による紙不足の中でも、なんとか出版を続けようと奮闘したシャルロの思いは、きっと同時代の出版人に共通する気持ちでもあったはずだ。
物資の不足がない現代なのに、燃えたぎる熱い思いがないのは、なんとももったいないことだと、ぼくは反省するのだ。
装丁は水崎真奈美氏。(2020)