アレッサンドロ・ボッファ『おまえはケダモノだ、ヴィスコヴィッツ』
カバーに描かれた狼のような、魔物のようなイラストと、タイトルの「おまえはケダモノ」とが、不吉な印象を与える。
読んでみると、少し変わった味わいの面白い短編が続く。
イラストをよく見ると、確かに、禍々しいというより、楽しそうな様子だ。
タイトルにもなっている「おまえはケダモノだ、ヴィスコヴィッツ」は、一番後ろに入っているので、最後に読んだ。
正直、何を言っているのか理解できない話だったが、おかしかった。
それは、それまで読み続けてきた、そのほかの話のテイストに慣れたからだろう。
21編の物語、主人公の名前は、どれもヴィスコヴィッツ。
ただし、別の生き物だ。
ヤマネ、カタツムリ、ヘラジカ、サメ、コガネムシなどなど。
それぞれの生態に忠実ながら、人間のように思考するものだから、どのヴィスコヴィッツも矛盾を抱え混乱する。
擬人化とは違うのだ。
サソリのくせに、そんなこと考えるなよ、そんなふうに思ってしまう。
考えすぎないで、もっと気楽に生きなよと。
では、人間はどうなのだろう。
この物語に、人間のヴィスコヴィッツは登場しない。
人間に対しても、同じことが言えるのだろうか。
考えすぎるなと。
そうなのかもしれない。
考えていくと、考えすぎない方がいいと気づくのだ。
この物語は、意外と深いのかもしれない。
装丁は水木奏氏、装画はスズキコージ氏。(2019)