ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

おまえはケダモノだ、ヴィスコヴィッツ

2019-11-17 11:18:54 | 読書
 アレッサンドロ・ボッファ『おまえはケダモノだ、ヴィスコヴィッツ』





 カバーに描かれた狼のような、魔物のようなイラストと、タイトルの「おまえはケダモノ」とが、不吉な印象を与える。

 読んでみると、少し変わった味わいの面白い短編が続く。

 イラストをよく見ると、確かに、禍々しいというより、楽しそうな様子だ。

 
 タイトルにもなっている「おまえはケダモノだ、ヴィスコヴィッツ」は、一番後ろに入っているので、最後に読んだ。

 正直、何を言っているのか理解できない話だったが、おかしかった。

 それは、それまで読み続けてきた、そのほかの話のテイストに慣れたからだろう。

 
 21編の物語、主人公の名前は、どれもヴィスコヴィッツ。

 ただし、別の生き物だ。

 ヤマネ、カタツムリ、ヘラジカ、サメ、コガネムシなどなど。

 それぞれの生態に忠実ながら、人間のように思考するものだから、どのヴィスコヴィッツも矛盾を抱え混乱する。

 擬人化とは違うのだ。

 サソリのくせに、そんなこと考えるなよ、そんなふうに思ってしまう。

 考えすぎないで、もっと気楽に生きなよと。

 では、人間はどうなのだろう。

 この物語に、人間のヴィスコヴィッツは登場しない。

 人間に対しても、同じことが言えるのだろうか。

 考えすぎるなと。

 そうなのかもしれない。

 考えていくと、考えすぎない方がいいと気づくのだ。

 この物語は、意外と深いのかもしれない。


 装丁は水木奏氏、装画はスズキコージ氏。(2019)



スエロは洞窟で暮らすことにした

2019-11-09 10:20:35 | 読書
マーク・サンディーン『スエロは洞窟で暮らすことにした』





 読む前の、表紙の印象から届くささやかな希望は、読後、やや失望に変わる。

 表紙に写る穏やかな男の表情と、背景の茶色い台地、果てしなく白い空、そしてタイトルや著者名などの要素が、とても素敵で、ひっくり返して背、表4を見ても好きな気持ちが減ることはない。

 原題は『THE MAN WHO QUIT MONEY』だが、『スエロは洞窟で暮らすことにした』の方がはるかにいい。

 でもそれが、読む前にぼくを違った方向に導びいてしまったのだ。

 洞窟で暮らすことに、自給自足のユートピアのようなイメージを持ってしまったのだ。

 スエロの生き方に、共感できる部分は少ない。

 お金を介在させない生き方は、つまるところ、周囲の人たちの好意に支えられている。

 無駄なものは買わないなど、極力シンプルな生き方は実践できる。

 でも、まったくお金を使わず、環境に負荷もかけない生活というのは、社会からこぼれてしまわないと難しいだろう。

 社会の束縛から自由になろうと思うと、不自由な考え方に縛られる。

 ただ、栞を本の頭からちょこっと出し、机の上に何気なく置いておくと、つい手に取りたくなる、魅力的に見える本ではある。


 装丁は鈴木成一デザイン室。(2017)





わたしは英国王に給仕した

2019-11-01 13:53:52 | 読書
ボフミル・フラバル『わたしは英国王に給仕した』
 




 カバーのイラストが可愛らしい。

 背筋をピンと伸ばした給仕が、ドームカバーがのったトレイを指3本で持ち、顎を上げて澄ましている。

 明るく賑やかな色合いが、楽しそうな物語をイメージさせる。

 
 ホテルのレストランで、給仕見習いとして働き始めた少年。

 職場を移り、少しずつ出世していく半生が綴られている。

 イラストのように、コミカルで、楽しい雰囲気に満ちている。

 ちょっと嫌な人も登場するけれど、愛に溢れた安心感がある。

 ところが、暗い影が少しずつ広がってくる。

 戦争が引き起こす混乱と、露わになっていく人間の醜さ。

 辛い出来事を経験し、年を重ね、かつての少年はホテルのオーナーにまでなる。

 しかし、心は満たされない。

 他人と人生に対して理解をしつつも、諦めの気持ちが強くなり希望を失っていく。

 それでも、エチオピア皇帝に給仕し勲章をもらったことの誇りはなくさず、それがこの物語の愛らしさを最後まで支える。

 
 カバーデザインは加藤賢策氏、カバー装画はアイハラチグサ氏。(2019)