アンナ・カヴァン『鷲の巣』
白っぽい表紙とグレーの帯には、さまざまな文字が刷り込まれている。
雑然としていて、どこに気持ちを集中させたらいいのか、つかみどころがない。
アンナ・カヴァンの本だと知っているので、それもしかたがないと、文字を追いかけるのをやめる。
まずは本文を読んでからだ。
デパートの広告デザイナーとして働いている男は、労働環境の悪さから転職を考えている。
新聞の求人欄に、以前世話になった人物の名前を見つけ、応募の手紙を送る。
好意的なメッセージを受け取ると、仕事を放り出し、手持ちのお金をほとんど使い切って旅費を捻出して、その〈管理者〉の元へ向かう。
男の言動には、情緒不安定な影が見える。
男を取り巻く人たちも、一風変わっていて、男どころか、読んでいるぼくをも不安な気持ちにさせる。
さらに男には、幻覚を見る癖があり、読んでいることが現実なのかはっきりしない。
〈管理者〉の住む〈鷲の巣〉と呼ばれる要塞のような建造物の中で、男は無為に日々を過ごす。
仕事をしたいと焦る男の気持ちが、周囲との衝突を生み、状況はますます混乱していく。
そして、すべてのことが行き詰まった男は…。
読後、この物語は? と絶句する。
必死さに、ぼくは悲しくなってくる。
装丁(書容設計)は羽良田平吉氏。(2020)