アントワーヌ・ローラン『青いパステル画の男』
古道具屋やアンティークショップには、思いもよらない物があって、いろいろと想像しながら眺めるのは楽しい。
だが、ときに長居がしにくい店がある。
店内の空気の重さに疲れてしまうのだ。
それは、物に染み込んだ人の思いのせいだと勝手に解釈している。
本書の主人公ショーモンは子どもの頃、消しゴムを集めていた。
彼の伯父は、財産を潰すほどのコレクターで、ある時伯父はコレクターとして知っておくべきことをショーモンに教える。
「本物のオブジェは、持っていた人の記憶を抱えている」と。
ショーモンは、「古いものには魂がある」と気づく。
彼はあっさり新しい消しゴムを手放し、以来骨董品の収集に邁進する。
弁護士となったショーモンは、自分の部屋だけでなく、リビングにまでコレクションを溢れさせ、妻から厳しい視線を浴びていた。
そこへ追い討ちをかけるように、彼は高額の絵を購入し、妻との間をさらに冷えさせてしまう。
絵に描かれた人物が、ショーモンと似ているかって?
そんなことは妻にとってどうでもいいことだろう。
物を愛する人は、人間に対する愛情が薄いのだろうか。
愛着は風化すると言うショーモンにとって、物も人間も同じなのかもしれない。
古い人間を簡単に手放し、新しく手に入れた人間に夢中になるショーモンを見ていてそう思う。
装画は北住ユキ氏、装丁は新潮社装幀室。(2023)