金沢発 22:55。
梅田着 翌6:00。
夜行バスから降り立った大阪は暗がりの中で微睡んでいた。
程なく朝日が昇ると、街が目覚め、人々が群れをなして動き始める。
次第に活気を帯びてゆく大都会に身を置いた僕は、孤独で自由だった。
「その時」を迎えるまで、まだ半日以上。
夜まで然したる当てもない。
何の下調べもしていない。
梅田~谷町九丁目~日本橋~難波~中之島---。
地下鉄を乗り継ぎ、気ままにぶらつき、腹が減ったら飯を喰った。
聞き馴れないイントネーションの会話と笑い声。
理由は判然としないが物凄い剣幕で駅員を怒鳴りつける男。
客引きの猫なで声。
クラクション、歩行者用青信号の誘導音。
あちこちから流れてくるクリスマスナンバー。
さんざめく街のノイズに包まれながら、心はどこか上の空。
「毒島 誠(ぶすじま・まこと)」から届いた
「白い招待状(※前回投稿参照リンク有)」開封の瞬間を待ちわびていたのだ。
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2024年12月22日・日曜日「住之江競艇場」。
年間王者を決める舞台には、既に大勢のファンが詰めかけていた。
舟券を買うのも。
食事を買うのも。
手洗に立つのも。
行列、また行列。
混み具合は激しくなる一方。
日が落ちる頃、観戦スタンドは人で埋め尽くされた。
「立錐の余地なし」とは、この事である。
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戯れに前座戦に張ってみたがハズレ。
どうも真剣に予想する気にならない。
やはり止めようと思った。
『最終12Rグランプリ優勝戦に手持ちの有り金すべてを賭けよう』
既に心は決まっていた。
舟券は、何があっても「毒島」アタマの二連単総流し。
数年間から、彼が乗艇するレースを買う時は問答無用でそうしてきた。
今回がその集大成になると信じていた。
早々と投票を済ませた僕はひたすら「その時」を待つ。
時折、疲れと寝不足に起因する生欠伸を噛み殺し、
凝り固まった首や肩を回し、屈伸したりしながら同じ場所に立ち続けた。
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振り返ればここまでの「毒島」の戦いぶりは安定していた。
3月、地元桐生の一般戦でオール1着の完全優勝。
今年最初のSG第59回ボートレースクラシックを初優勝。
5月、SG第51回ボートレースオールスター優出。
8月、芦屋競艇G1レース優出。
10月、SG第71回ボートレースダービー優出。
11月、丸亀競艇G1レース優出。
12月、三国競艇と福岡競艇のG1レース優出。
これら積み重ねた成績によって年間賞金ランク2位を確保し、
手に入れた好モーターを駆使してグランプリ予選初日1着→二日目2着→三日目3着。
見事、最終決戦のポールポジションに陣取った。
その威風堂々たる歩みは王座へと続く道のりである。
彼の日本一への挑戦は8年連続11回目。
うち6度もファイナルの舞台に立ち、準Vも2度。
だが頂点は極めていない。
これまで悔しい思いばかりしてきた。
それが、やっと---。
やっとここに置き忘れた「誇り」を取り戻せる。
何度も同じ思考を反芻し、戦前にも拘わらず目頭が熱くなった。
そして、1人のファンが10年間待ち望んだ「その時」が来た。
風一つない鏡のような静水面に6つの航跡が描かれる。
辺りは割れんばかりの大歓声が木霊する。
会場のボルテージはうなぎ上りだ。
皆、応援するレーサーの名前を叫んでいた。
勿論、僕もその1人である。
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正直、揉みくちゃの現場ではレース展開がどうなっているのかなどよく分からない。
ただ「毒島」が負けないスタートを踏み込み、追いすがる2号艇を振り切り、
他を置き去りにしてゴールしたのは、確かにこの目で見た。
その一番見たかった景色を味わえたのは束の間。
すぐに涙で霞み朧気になってしまった。
ロクな写真も撮れなかったので、以下に公式youtube動画のリンクを貼っておく。
もしご覧になる際は大歓声音量にお気を付けください。
我こそ王者。毒島誠 悲願のグランプリ初制覇!!│BOATCAST NEWS 2024年12月22日│
わが舟券は勿論的中。
収支はマイナスで懐は痛んだが、今回ばかりは不問。
僕にとってこのレースは特別な意味を持っていたのだ。
この世の「心残り」が1つ減った。
レース終了後、そそくさと住之江競艇場を後にした。
帰りのバス時間が迫っていた。
金沢に到着したら、その足で仕事場へ直行しなければならない。
勝利の余韻を嚙みしめながら帰途に就く。
これもまた旅打ちの醍醐味である。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/27/3e08d28e575c324985a6d7483ba026ff.jpg)
ブス、おめでとう!