最近、「落語」にハマっている。
笑いを誘う話芸の妙もさることながら、
噺に盛り込まれた江戸の風俗・エピソードが興味深い。
ジャンルとしては「古典」が好みだ。
先日聞いたのは「吉原」を舞台にした「紺屋高尾(こうや・たかお)」。
あらすじは以下の通りである。
神田紺屋町、染物屋の職人「久蔵」が寝付いてしまった。
原因は「岡惚れ」。
兄弟子に連れられ初めて足を踏み入れた「吉原」で花魁道中に出くわし、
恋患いしたらしい。
相手は、飛ぶ鳥落とす勢いの大店「三浦屋」の「高尾太夫」だ。
当時、花魁は江戸の大スター。
雲の上の存在で、実際に遊ぶ事など出来る物ではなかった。
しかも「太夫」となれば、見識があり美貌が良く、教養があり、
吉原の遊女3,000人のNo.1。
文が立ち、筆が立ち、茶道、花道、碁、将棋が出来て、三味線、琴を嗜み、
歌が唄えて、和歌、俳諧に通じる万能選手。
豪商、大名がお相手で、庶民は浮世絵を眺めてため息を突くのが関の山。
つまりは“身分違い”なのだ。
しかし、理屈で割り切れないのが人の心。
久蔵は、頭で分かっているのだが、どうにも諦めきれない。
何もかも全て高尾太夫に見え、飯は喉を通らず、夜も眠れず…。
見るに見かねて、親方はこう言った。
『十五両だ。 十五両貯めたら、高尾に会える!』
久蔵は、働いた。
寝る間も惜しんで、働いた。
3年間働き、十八両と二朱貯めた。
そして、染物職人の身分を隠し、醤油問屋の若旦那と偽って、
近所のお医者様に連れられ、憧れの高尾の前へ…。
共に一夜を明かし、思いを遂げて迎えた朝。
高尾は一幅つけながら久蔵に聞いた。
『こんどは何時来てくんなます?』
久蔵は、両の目に溢れる涙と一緒に声を絞り出すように言った。
『…3年経たないとこれないのです…。』
そして、何もかも告白した。
自分が何者で、どんな思いを抱えて、今ここにいるかを。
男の一途な気持ちに感動した高尾は決心した。
『来年の3月15日、年季が明けたら、わちきを女房にしてくんなますか?』
そして約束の日。
高尾は久蔵の前に現れ、めでたく夫婦になった…。
噺家さんによって細部の組み立てが異なるようだが、概ね、こんな感じ。
お話しの舞台になった「吉原」は、元々、人の住まない湿地帯で、
葦ばかりが生え、強盗が出るような荒れ地だったそうだ。
それで売春エリアにでもすれば少しはマシになるだろうと考え造成。
葦原は「悪(あ)し」に通じるので、吉の字を充て「吉(よし)はら」になった。
…という事で「今日の一枚」は、津幡川の小さな葦原である。
北国街道の小さな宿場町だった津幡町が「廓」だったとは思えないが、
遊女屋の一つや二つはあったのかもしれない。
そこでは、男と女のドラマが繰り広げられたのだろう。