田中宇の国際ニュース解説 2008年9月30日 http://tanakanews.com/
つづき
米政府は、以前からこのパターンの策略を展開してきた。2005年にハリ
ケーン「カトリーナ」が米南部を破壊した時、浸水して混乱するニューオリン
ズで略奪や暴動が起きているという誇張報道が流され、誇張情報に基づいて米
政府は軍隊を派遣し、有事を理由にホワイトハウスが州知事から権限を剥奪し
た。派遣された米軍は、貧困層の市民の怒りを扇動する言動を繰り返した。同
時に米政府は、詳細を決めずに「ハリケーン復興予算」として前代未聞の
2000億ドルの支出を計上した。だが、ハリケーンと全く関係ない分野に財
政の大盤振る舞いをした挙句、カトリーナから2年がすぎても、被災地はろく
に復興しなかった。
http://tanakanews.com/f0918katrina.htm
http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,2157830,00.html
「有事」が誇張され、暴動が扇動されて、禁制のはずの米国内への軍隊駐留が
挙行され、同時に無関係な分野にまで財政の大盤振る舞いが行われる。このパ
ターンは、今回と、05年のカトリーナ、それから01年の911事件後の事
態にも共通している。911後、イスラム教徒だというだけで無実の米市民が
当局に拘束されて怒りを扇動される一方、テロ対策の名目で財政の無駄遣いが
続けられた。
http://tanakanews.com/e0914wtc.htm
http://tanakanews.com/f0823terror.htm
この傾向は現ブッシュ政権のみならず、90年代のクリントン政権時代にも
テロ対策の名目で貧困層の米市民に対する抑圧が行われたし、80年代のレー
ガン政権時には「麻薬戦争」の名目で、似たような抑圧と予算支出拡大が行わ
れた。米政府による、国内有事体制の誘発と、財政破綻を招く異様な浪費の傾
向は、以前からのものだが、ブッシュ政権になって急拡大した。有事体制の誘
発で政府の権限を拡大し、財政拡大によるキックバックで私腹を肥やすという
腐敗の構図なのかもしれないが、こんなことを続けていると、いずれ米国は社
会的にも経済的にも崩壊する。
▼今ひとつ進まない多極化
1970年代のニクソン政権以来、米中枢では、覇権を自滅させようとする
かのような行動が何回も行われてきたが、米国が自滅しかかるたびに蘇生させ
てきたのが英国の策略だった。たとえば71年にニクソンが財政難を激化させ
てドルを崩壊させた後には、英が日独など他の先進国に働きかけ、金持ちとな
った日独などにドルを買い支えさせるG5の協調介入の体制を作り、ドルを蘇
生させた。
http://tanakanews.com/071106dollar.htm
200年前から欧州の外交を漁夫の利的に動かしてきた英国は、国際会議の
事務局を隠然と操ることで、国際社会を動かす技能を持っている。国連傘下の
IPCCを動かして「二酸化炭素のせいで地球が温暖化している」という単な
る一つの仮説を「議論の余地のない事実」に仕立てることに成功しているのが
好例だ。ドルが崩壊しても、敗戦国である日独にドルを買わせるのは、英にと
って十分に可能だった。
http://tanakanews.com/080422warming.htm
http://tanakanews.com/080814hegemon.htm
70年代にドル崩壊を演出した多極主義者(NY資本家?)たちは、ドルを
崩壊させれば米英中心の世界体制が崩壊し、日独など米英を恨んでいるはずの
国々が覇権の多極化を画策してくれると思ったのかもしれない。しかし、戦後
の日独は牙を全部抜かれていた。英国は、対米従属を好む日独を動かしてドル
を買わせ、米英覇権体制を立て直した。
70年代の教訓から、ここ数年の多極化の策略は、ロシア・中国・アラブ産
油国といった次世代の地域覇権諸国をテロ戦争や単独覇権主義によって意図的
に怒らせ、米国が財政破綻などによって覇権を自滅させた後、英国が中露アラ
ブに接近して米国立て直しに協力させようとしても失敗する状況をあらかじめ
作ってある。米国は、90年代から欧州諸国にEU統合を奨励し、欧州諸国が
「米の傘下にいるより独自の地域覇権になった方が得策だ」と思うようにも仕
向けた。
これらの多極化の準備作業は進められたものの、完全には成功していない。
ロシアは今夏のグルジア戦争後、事実上「米英中心体制に協力するのはやめた」
と宣言した。だが中国は「米国がまともな国に戻るなら、米英中心体制が復活
するのが一番良い」と、いまだに思っている。EUでは、今年6月に政治統合
の「リスボン条約」がアイルランドの国民投票で否決され、統合推進はしばら
く棚上げとなった。
http://www.ft.com/cms/s/0/07f73f32-849a-11dd-b148-0000779fd18c.html
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601103&sid=ablo4iRCTYGw
アラブ産油諸国の盟主であるサウジアラビアは、911以来、米に濡れ衣で
悪者扱いされ、国内世論は反米化したものの、政府(王室)は、米英中心の世
界体制が崩れてイスラム主義が強くなるとサウジ王制も倒されかねないと懸念
し、親米英の姿勢を続けている。たとえばアフガニスタン関係では、米国が過
激な軍事偏重のアフガン占領政策を展開し、NATOによる占領が自滅的に失
敗しかけている中、サウジは英国に頼まれて、タリバンと米傀儡カルザイ政権
との和解を仲裁しようと動いている。米が失敗させているアフガン占領を何と
か立て直したい英の策略に、サウジは協力している。
http://www.guardian.co.uk/world/2008/sep/28/afghanistan.defence
世界は19世紀初頭以来200年間、英もしくは米英の覇権体制で回ってき
た。世界の近代・現代は全期間が英米覇権体制だった。人類は、英米覇権以外
の近現代を知らない。この200年、英米、特に英が演出(ねつ造や歪曲も含
む)した価値観や発想法は、人類全体の知識や気持ちの中に深く根ざしており、
簡単に変えられない。英は、自国に都合が良い価値観を世界に定着させ、軍産
複合体やイスラエルを使って米を操り、米英中心の世界体制を維持してきた。
これを壊そうとする米中枢の勢力は「軍事侵攻による民主化」に象徴される、
英が演出する価値観を「やりすぎ」によって化けの皮をはがす戦略を展開し、
米英の支配に対する人々の評価を「善」から「悪」に転換し、破壊しようとし
ている。しかし、世界の多くの国々の指導者は、米英中心体制を脱却して「次
の体制」に踏み出すことなど思いもよらないので現状維持を希望し、米自体が
崩壊感を強めても、世界は多極化しそうでしない「覇権のババ抜き」の状態が
続いている。
http://tanakanews.com/f0615empire.htm
それなら世界は米英中心体制の再強化の方向に戻るかといえば、それも考え
にくい。現在の金融危機に対し、米政府が財政破綻につながりかねない大救済
策を検討し始めた後、英のブラウン首相が9月26日に急遽ホワイトハウスを
訪問し、ブッシュ大統領と金融危機対策について会談した。ブラウンは、米英
協調で国際的な金融規制の新制度を作ることを構想しており、70年代に米ニ
クソンがドルを崩壊させた後の米英協調(事実上の英主導)の立て直しのよう
なやり方を再現し、米の金融自滅を防ごうとしているのかもしれない。
http://www.ft.com/cms/s/0/6cfe76ea-8b14-11dd-b634-0000779fd18c.html
これがうまくいけば、中国やアラブ産油国に金を出させて米英金融機関の不
良債権を買わせるようなやり方も可能かもしれない。しかし、米の金融危機は
急ピッチで悪化しており、もはや対策を講じて食い止められる段階ではなさそ
うだ。80年代後半以降、英の金融体制はほとんど米のコピーで、米が大儲け
した従来は英も大儲けしたが、今では逆に、米連銀や財務省の失敗する対策の
悪影響が英に感染し、英金融界も崩壊寸前だ。
▼しばらくは残る英演出の善悪観
従来、先進国が途上国を従える米英中心の世界体制にとって必要なことの一
つは、先進国が最貧諸国を経済支援し、世界的な貧富格差を縮小し、世界を安
定させることだった。英のブレア前首相は数年前、G8などで「世界の貧困救
済」「アフリカ救済」をさかんに取り上げ、先進各国から最貧諸国への援助金
を増やそうとした。だが、米ブッシュ政権はこれを拒否し、対米従属の日本な
ど他の先進国も援助増額に消極的で、先進国から最貧国への援助は増えなかっ
た。今では、アフリカに最も食い込んでいるのは中国やアラブ諸国、ロシアな
どだ。アフリカ諸国は反欧米の傾向を強めている。
http://www.iht.com/articles/2008/09/24/opinion/edpoor.php
前回の記事( http://tanakanews.com/080928UN.htm )に書いたように、国
連での影響力も、欧米より非米・反米的な諸国の方が強くなっている。来年民
主党のオバマ政権ができ、米英協調の再強化が図られた場合、共和党側がネオ
コン系のプロパガンダ装置を発動して邪魔するのを乗り越えて、米英中心の世
界体制のある程度の立て直しが可能かもしれない。しかし、次の大統領が誰に
なろうと、米の金融崩壊や財政破綻は阻止できる見込みは薄いから、やはり米
英中心の世界体制は崩れる方向だろう。
米英中心の体制が崩れると、英が演出して全人類の頭の中に根ざしている人
権や環境などの価値観に沿った国際政治がなされなくなるので、価値観的には
「暗い時代」「悪がはびこる時代」となる。英米中心主義の残党は、米欧日の
マスコミや官僚などの中に今後も居残り、しばらくは旧来の善悪観を扇動し続
けるだろう。しかし、これらの価値観はそもそも英の都合に合わせて世界の人
々を200年洗脳してきた成果でしかないのだから「善悪」の「悪」がはびこ
っても、実は大して悪いことではない。
経済的には、発展途上国の経済発展を抑止してきた体制が消えるので、世界
の貧困は減りそうだ。途上国の人々は生活向上が大事なので、この方が良い。
BRICの成長によって、先進国の産業の輸出先も拡大するだろう。米経済の
消費が減る分を、中国の消費が穴埋めすることは可能だとFT紙の記事は書い
ている。(筆者は例によって多極主義のゴールドマンサックスだが)
http://www.ft.com/cms/s/0/1ab52c24-88b9-11dd-a179-0000779fd18c.html
▼多極化に乗る北朝鮮、乗れない日本
ロシアが今夏の戦争を機に米英覇権を尊重するのをやめ、国連が反米諸国に
乗っ取られる中、これらと同様の方向に進みだした国の一つが北朝鮮である。
北朝鮮の金正日書記は、このところ公式の場に全く出てこなくなり、病気説が
根強い。だがその一方で、その後も北朝鮮は、寧辺の核施設を再起動させて米
との約束を破棄したり、韓国との話し合いを再開したいと韓国政府に連絡して
きたりして、金正日自身しか決定できないような新しい外交戦略をとっている。
http://news.yahoo.com/s/nm/20080926/wl_nm/us_korea_north_talksint
もしかすると金正日は重い病気になどなっておらず、8月に米がテロ支援国
家リストからの除外を行わなかったため米朝間の約束が破綻し、9月に入って
米金融崩壊によって米覇権体制が崩れ出す新事態の中、金正日は公式な場から
姿を消して謎を倍増させる策略をとり、事実上の宗主国である中国政府とは裏
で連絡を密にしつつ、もはや米を相手にせず、反米非米諸国のネットワークの
中で生きていく新戦略を開始したのではないかとも思える。ベネズエラなど中
南米の反米諸国は近年、北朝鮮との友好関係を強調している。平壌では最近、
これまで止まっていた各所でのビル建設が再開されている。
http://fairuse.100webcustomers.com/mayfaire/latimes0168.htm
世界は、米の同盟国であるドイツの財務相が、米覇権の崩壊と世界の多極化
を独議会で公言するような事態にある。BRICや北朝鮮、中南米、イスラム
諸国なども、米覇権の崩壊をにらんで動き出している。それなのに、日本はい
まだに対米従属一本槍で、世界の多くの人々がインチキと感じている米の「テ
ロ戦争」に全面協力したいと麻生新首相が国連で演説したり、自民党も民主党
も自衛隊のアフガン派遣を検討したりして、えらく頓珍漢である。米がNATO
を自滅させようとしているアフガンに、今から自衛隊を派遣するのは、犬死を
強いる大愚策である。
米共和党系の分析者(元レーガン政権顧問)であるダグ・バンドウは最近の
論評で「在日米軍、在韓米軍が駐留している限り、日本や韓国は怠慢な気持ち
を捨てず、国際社会で自立しようという気が起こらない。日韓を覚醒させて自
立させるため、日本と韓国に駐留する米軍はさっさと撤退すべきである」と主
張している。
http://www.atimes.com/atimes/Korea/JI25Dg01.html
米覇権が崩壊していく中、日本は早く対米従属後の国家戦略を考え始めなけ
ればならない。日本の将来を考えるなら、バンドウの言うとおり、在日米軍に
早く撤退してもらうべきである。対米従属の永続化が省益になる外務省などは、
米軍撤退を阻止するだろうが、狭い了見で動くのは、もういい加減にやめた方
が良い。激しく同意(^^)
つづき
米政府は、以前からこのパターンの策略を展開してきた。2005年にハリ
ケーン「カトリーナ」が米南部を破壊した時、浸水して混乱するニューオリン
ズで略奪や暴動が起きているという誇張報道が流され、誇張情報に基づいて米
政府は軍隊を派遣し、有事を理由にホワイトハウスが州知事から権限を剥奪し
た。派遣された米軍は、貧困層の市民の怒りを扇動する言動を繰り返した。同
時に米政府は、詳細を決めずに「ハリケーン復興予算」として前代未聞の
2000億ドルの支出を計上した。だが、ハリケーンと全く関係ない分野に財
政の大盤振る舞いをした挙句、カトリーナから2年がすぎても、被災地はろく
に復興しなかった。
http://tanakanews.com/f0918katrina.htm
http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,2157830,00.html
「有事」が誇張され、暴動が扇動されて、禁制のはずの米国内への軍隊駐留が
挙行され、同時に無関係な分野にまで財政の大盤振る舞いが行われる。このパ
ターンは、今回と、05年のカトリーナ、それから01年の911事件後の事
態にも共通している。911後、イスラム教徒だというだけで無実の米市民が
当局に拘束されて怒りを扇動される一方、テロ対策の名目で財政の無駄遣いが
続けられた。
http://tanakanews.com/e0914wtc.htm
http://tanakanews.com/f0823terror.htm
この傾向は現ブッシュ政権のみならず、90年代のクリントン政権時代にも
テロ対策の名目で貧困層の米市民に対する抑圧が行われたし、80年代のレー
ガン政権時には「麻薬戦争」の名目で、似たような抑圧と予算支出拡大が行わ
れた。米政府による、国内有事体制の誘発と、財政破綻を招く異様な浪費の傾
向は、以前からのものだが、ブッシュ政権になって急拡大した。有事体制の誘
発で政府の権限を拡大し、財政拡大によるキックバックで私腹を肥やすという
腐敗の構図なのかもしれないが、こんなことを続けていると、いずれ米国は社
会的にも経済的にも崩壊する。
▼今ひとつ進まない多極化
1970年代のニクソン政権以来、米中枢では、覇権を自滅させようとする
かのような行動が何回も行われてきたが、米国が自滅しかかるたびに蘇生させ
てきたのが英国の策略だった。たとえば71年にニクソンが財政難を激化させ
てドルを崩壊させた後には、英が日独など他の先進国に働きかけ、金持ちとな
った日独などにドルを買い支えさせるG5の協調介入の体制を作り、ドルを蘇
生させた。
http://tanakanews.com/071106dollar.htm
200年前から欧州の外交を漁夫の利的に動かしてきた英国は、国際会議の
事務局を隠然と操ることで、国際社会を動かす技能を持っている。国連傘下の
IPCCを動かして「二酸化炭素のせいで地球が温暖化している」という単な
る一つの仮説を「議論の余地のない事実」に仕立てることに成功しているのが
好例だ。ドルが崩壊しても、敗戦国である日独にドルを買わせるのは、英にと
って十分に可能だった。
http://tanakanews.com/080422warming.htm
http://tanakanews.com/080814hegemon.htm
70年代にドル崩壊を演出した多極主義者(NY資本家?)たちは、ドルを
崩壊させれば米英中心の世界体制が崩壊し、日独など米英を恨んでいるはずの
国々が覇権の多極化を画策してくれると思ったのかもしれない。しかし、戦後
の日独は牙を全部抜かれていた。英国は、対米従属を好む日独を動かしてドル
を買わせ、米英覇権体制を立て直した。
70年代の教訓から、ここ数年の多極化の策略は、ロシア・中国・アラブ産
油国といった次世代の地域覇権諸国をテロ戦争や単独覇権主義によって意図的
に怒らせ、米国が財政破綻などによって覇権を自滅させた後、英国が中露アラ
ブに接近して米国立て直しに協力させようとしても失敗する状況をあらかじめ
作ってある。米国は、90年代から欧州諸国にEU統合を奨励し、欧州諸国が
「米の傘下にいるより独自の地域覇権になった方が得策だ」と思うようにも仕
向けた。
これらの多極化の準備作業は進められたものの、完全には成功していない。
ロシアは今夏のグルジア戦争後、事実上「米英中心体制に協力するのはやめた」
と宣言した。だが中国は「米国がまともな国に戻るなら、米英中心体制が復活
するのが一番良い」と、いまだに思っている。EUでは、今年6月に政治統合
の「リスボン条約」がアイルランドの国民投票で否決され、統合推進はしばら
く棚上げとなった。
http://www.ft.com/cms/s/0/07f73f32-849a-11dd-b148-0000779fd18c.html
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601103&sid=ablo4iRCTYGw
アラブ産油諸国の盟主であるサウジアラビアは、911以来、米に濡れ衣で
悪者扱いされ、国内世論は反米化したものの、政府(王室)は、米英中心の世
界体制が崩れてイスラム主義が強くなるとサウジ王制も倒されかねないと懸念
し、親米英の姿勢を続けている。たとえばアフガニスタン関係では、米国が過
激な軍事偏重のアフガン占領政策を展開し、NATOによる占領が自滅的に失
敗しかけている中、サウジは英国に頼まれて、タリバンと米傀儡カルザイ政権
との和解を仲裁しようと動いている。米が失敗させているアフガン占領を何と
か立て直したい英の策略に、サウジは協力している。
http://www.guardian.co.uk/world/2008/sep/28/afghanistan.defence
世界は19世紀初頭以来200年間、英もしくは米英の覇権体制で回ってき
た。世界の近代・現代は全期間が英米覇権体制だった。人類は、英米覇権以外
の近現代を知らない。この200年、英米、特に英が演出(ねつ造や歪曲も含
む)した価値観や発想法は、人類全体の知識や気持ちの中に深く根ざしており、
簡単に変えられない。英は、自国に都合が良い価値観を世界に定着させ、軍産
複合体やイスラエルを使って米を操り、米英中心の世界体制を維持してきた。
これを壊そうとする米中枢の勢力は「軍事侵攻による民主化」に象徴される、
英が演出する価値観を「やりすぎ」によって化けの皮をはがす戦略を展開し、
米英の支配に対する人々の評価を「善」から「悪」に転換し、破壊しようとし
ている。しかし、世界の多くの国々の指導者は、米英中心体制を脱却して「次
の体制」に踏み出すことなど思いもよらないので現状維持を希望し、米自体が
崩壊感を強めても、世界は多極化しそうでしない「覇権のババ抜き」の状態が
続いている。
http://tanakanews.com/f0615empire.htm
それなら世界は米英中心体制の再強化の方向に戻るかといえば、それも考え
にくい。現在の金融危機に対し、米政府が財政破綻につながりかねない大救済
策を検討し始めた後、英のブラウン首相が9月26日に急遽ホワイトハウスを
訪問し、ブッシュ大統領と金融危機対策について会談した。ブラウンは、米英
協調で国際的な金融規制の新制度を作ることを構想しており、70年代に米ニ
クソンがドルを崩壊させた後の米英協調(事実上の英主導)の立て直しのよう
なやり方を再現し、米の金融自滅を防ごうとしているのかもしれない。
http://www.ft.com/cms/s/0/6cfe76ea-8b14-11dd-b634-0000779fd18c.html
これがうまくいけば、中国やアラブ産油国に金を出させて米英金融機関の不
良債権を買わせるようなやり方も可能かもしれない。しかし、米の金融危機は
急ピッチで悪化しており、もはや対策を講じて食い止められる段階ではなさそ
うだ。80年代後半以降、英の金融体制はほとんど米のコピーで、米が大儲け
した従来は英も大儲けしたが、今では逆に、米連銀や財務省の失敗する対策の
悪影響が英に感染し、英金融界も崩壊寸前だ。
▼しばらくは残る英演出の善悪観
従来、先進国が途上国を従える米英中心の世界体制にとって必要なことの一
つは、先進国が最貧諸国を経済支援し、世界的な貧富格差を縮小し、世界を安
定させることだった。英のブレア前首相は数年前、G8などで「世界の貧困救
済」「アフリカ救済」をさかんに取り上げ、先進各国から最貧諸国への援助金
を増やそうとした。だが、米ブッシュ政権はこれを拒否し、対米従属の日本な
ど他の先進国も援助増額に消極的で、先進国から最貧国への援助は増えなかっ
た。今では、アフリカに最も食い込んでいるのは中国やアラブ諸国、ロシアな
どだ。アフリカ諸国は反欧米の傾向を強めている。
http://www.iht.com/articles/2008/09/24/opinion/edpoor.php
前回の記事( http://tanakanews.com/080928UN.htm )に書いたように、国
連での影響力も、欧米より非米・反米的な諸国の方が強くなっている。来年民
主党のオバマ政権ができ、米英協調の再強化が図られた場合、共和党側がネオ
コン系のプロパガンダ装置を発動して邪魔するのを乗り越えて、米英中心の世
界体制のある程度の立て直しが可能かもしれない。しかし、次の大統領が誰に
なろうと、米の金融崩壊や財政破綻は阻止できる見込みは薄いから、やはり米
英中心の世界体制は崩れる方向だろう。
米英中心の体制が崩れると、英が演出して全人類の頭の中に根ざしている人
権や環境などの価値観に沿った国際政治がなされなくなるので、価値観的には
「暗い時代」「悪がはびこる時代」となる。英米中心主義の残党は、米欧日の
マスコミや官僚などの中に今後も居残り、しばらくは旧来の善悪観を扇動し続
けるだろう。しかし、これらの価値観はそもそも英の都合に合わせて世界の人
々を200年洗脳してきた成果でしかないのだから「善悪」の「悪」がはびこ
っても、実は大して悪いことではない。
経済的には、発展途上国の経済発展を抑止してきた体制が消えるので、世界
の貧困は減りそうだ。途上国の人々は生活向上が大事なので、この方が良い。
BRICの成長によって、先進国の産業の輸出先も拡大するだろう。米経済の
消費が減る分を、中国の消費が穴埋めすることは可能だとFT紙の記事は書い
ている。(筆者は例によって多極主義のゴールドマンサックスだが)
http://www.ft.com/cms/s/0/1ab52c24-88b9-11dd-a179-0000779fd18c.html
▼多極化に乗る北朝鮮、乗れない日本
ロシアが今夏の戦争を機に米英覇権を尊重するのをやめ、国連が反米諸国に
乗っ取られる中、これらと同様の方向に進みだした国の一つが北朝鮮である。
北朝鮮の金正日書記は、このところ公式の場に全く出てこなくなり、病気説が
根強い。だがその一方で、その後も北朝鮮は、寧辺の核施設を再起動させて米
との約束を破棄したり、韓国との話し合いを再開したいと韓国政府に連絡して
きたりして、金正日自身しか決定できないような新しい外交戦略をとっている。
http://news.yahoo.com/s/nm/20080926/wl_nm/us_korea_north_talksint
もしかすると金正日は重い病気になどなっておらず、8月に米がテロ支援国
家リストからの除外を行わなかったため米朝間の約束が破綻し、9月に入って
米金融崩壊によって米覇権体制が崩れ出す新事態の中、金正日は公式な場から
姿を消して謎を倍増させる策略をとり、事実上の宗主国である中国政府とは裏
で連絡を密にしつつ、もはや米を相手にせず、反米非米諸国のネットワークの
中で生きていく新戦略を開始したのではないかとも思える。ベネズエラなど中
南米の反米諸国は近年、北朝鮮との友好関係を強調している。平壌では最近、
これまで止まっていた各所でのビル建設が再開されている。
http://fairuse.100webcustomers.com/mayfaire/latimes0168.htm
世界は、米の同盟国であるドイツの財務相が、米覇権の崩壊と世界の多極化
を独議会で公言するような事態にある。BRICや北朝鮮、中南米、イスラム
諸国なども、米覇権の崩壊をにらんで動き出している。それなのに、日本はい
まだに対米従属一本槍で、世界の多くの人々がインチキと感じている米の「テ
ロ戦争」に全面協力したいと麻生新首相が国連で演説したり、自民党も民主党
も自衛隊のアフガン派遣を検討したりして、えらく頓珍漢である。米がNATO
を自滅させようとしているアフガンに、今から自衛隊を派遣するのは、犬死を
強いる大愚策である。
米共和党系の分析者(元レーガン政権顧問)であるダグ・バンドウは最近の
論評で「在日米軍、在韓米軍が駐留している限り、日本や韓国は怠慢な気持ち
を捨てず、国際社会で自立しようという気が起こらない。日韓を覚醒させて自
立させるため、日本と韓国に駐留する米軍はさっさと撤退すべきである」と主
張している。
http://www.atimes.com/atimes/Korea/JI25Dg01.html
米覇権が崩壊していく中、日本は早く対米従属後の国家戦略を考え始めなけ
ればならない。日本の将来を考えるなら、バンドウの言うとおり、在日米軍に
早く撤退してもらうべきである。対米従属の永続化が省益になる外務省などは、
米軍撤退を阻止するだろうが、狭い了見で動くのは、もういい加減にやめた方
が良い。激しく同意(^^)