警視庁公安部の捜査員が「(事件は)捏造(ねつぞう)」と証言した異例の国家賠償訴訟の27日の判決で、東京地裁は警視庁の逮捕も東京地検の起訴も「違法」と判断した。1年近く身柄拘束された原告の機械製造会社「大川原化工機」社長の大川原正明さん(74)らは「捜査機関には二度とこのようなことが起きないよう検証してほしい」と訴えた。(山田雄之、佐藤航)
「適切な判断をしてもらえた。警視庁と検察庁には謝罪をいただきたい」
「適切な判断をしてもらえた。警視庁と検察庁には謝罪をいただきたい」
判決直後、地裁の正門前に現れた大川原さんは、柔らかな表情で支援者らに語った。そばには「勝訴」や「違法捜査を認定」と書かれた旗が並んだ。
警視庁に逮捕されたのは2020年3月。「しっかり説明すれば疑いは晴れる」。1年半前に会社などの家宅捜索を受けて以降、大川原さんや従業員ら計50人が延べ291回の任意聴取に応じていた。だが、思いは裏切られた。
◆胃がんと分かっても保釈は認められなかった
逮捕後は否認し黙秘を貫いた。起訴後、何度も保釈を請求したが、裁判所は「証拠隠滅の恐れがある」として却下し続けた。罪を認めなければ長期間、身体拘束される「人質司法」を身をもって感じた。保釈が認められたのは逮捕から11カ月後の21年2月だった。
保釈の2日後。ともに逮捕・起訴された元顧問の相嶋静夫さん=当時(72)=が亡くなった。前年秋に胃がんが分かっても保釈が認められず、勾留停止という不安定な状態で入院し、命を落とした。
東京地検の起訴取り消しから2カ月後の21年9月、国賠訴訟を起こした。地検は起訴取り消し時に無実と言わず、「自ら真実を明らかにして、名誉を回復するしかない」と決意した。
大川原さんは判決後の記者会見で「長期勾留で相嶋さんは亡くなってしまった。なぜ逮捕する必要があったのか」と疑問を呈した。
会見に同席した元取締役の島田順司さん(70)は、判決で違法な取り調べを受けたと認定された。「警察も検察も再発防止に向けて検証をしてほしい」と語気を強めた。
◆「お父さんの製品は疑われるものじゃなかった」
判決は相嶋さんが亡くなったことに触れ、「体調に異変があった際に直ちに医療機関を受診できず、勾留執行停止という不安定な立場で治療を余儀なくされた」と述べた。
同席した相嶋さんの長男(50)は遺影を前に、声を絞り出した。「お父さんの製品は疑われるものじゃなかったと墓前で報告したい。最期を平穏に過ごせなかった最大の要因は、裁判官が保釈を認めなかったことだ。司法関係者は改善を真剣に考えてほしい」
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◆「立件ありきが浮き彫り」「流出防止には民間企業の協力不可欠」
元裁判官の水野智幸法政大法科大学院教授(刑事法)の話 噴霧乾燥機に関する従業員らの証言を見過ごしたのは、捜査機関の立件ありきの姿勢を浮き彫りにしている。警察、検察ともに組織としての検証が必要だ。今回の原告たちへの長期勾留は、身体拘束して自白を得る「人質司法」と呼ばれても仕方ない。経済事犯であり、原告らが高齢なことを踏まえ、裁判所も早期に保釈するべきだった。
犯罪やテロ対策に詳しい板橋功公共政策調査会研究センター長の話 東京地検が起訴を取り消した時点で捜査に不備があったことは明らかだった。噴霧乾燥機について捜査機関は勉強不足だった。近年、海外への物や情報の不正流出を取り締まるのは、経済安保の重要課題の一つだ。流出の未然防止には民間企業の協力が不可欠。今回の捜査をしっかり検証して反省し、信頼の回復に努める必要がある。
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