ウクライナ侵攻後、日本国内で暮らすロシア人に対する中傷や嫌がらせが相次いでいる。憎悪犯罪(ヘイトクライム)にほかならない。政府は看過せず差別を許さぬメッセージを発するのは当然だ。
二月の侵攻以来、ネット上では「日本からロシア人を追い出せ」などの書き込みが絶えない。ロシア料理店への評価欄にも誹謗(ひぼう)中傷が書き込まれ、東京・銀座ではロシア食品店の看板も壊された。
東京のJR恵比寿駅では、ロシア語の案内表示が一週間ほど紙で隠された=写真。JR側は関係を否定しているが、複数の利用者からロシア語表記が「不快だ」との訴えがあったという。
いずれもロシアのプーチン政権への批判が、侵攻に責任のない個人に対する攻撃にすり替わっている。国籍や人種、民族、宗教などの属性を巡る差別はヘイトクライムであり、高じれば集団殺害に及ぶ危険性さえある。
日本社会には、緊張が高まると特定の人々に処罰感情を向ける悪弊がある。強い同調圧力は反論を許さず、被害者らは結局、泣き寝入りすることになる。
海外ではプーチン政権批判を求められ、応じなかったロシア人芸術家の公演が中止された。ロシアの作曲家チャイコフスキーの楽曲が演目から外された例もある。
「内心の自由」は人権の基本的な要素であり、表現活動は政治から自由であるべきだ。踏み絵を踏ませる行為は慎むべきである。
かつては日本人自身が差別の被害者になった例もある。第二次世界大戦中、十二万人以上の日系米国人が「敵性外国人」とされ、強制収容された。イラク戦争などで日本政府が米国に追随したため、中東で日本人ジャーナリストらがテロの標的となった。
二〇一六年に施行されたヘイトスピーチ解消法は、外国人への不当な差別的言動の解消を掲げ、政府に差別解消のための啓発活動などを義務付ける。
政府は国内のロシア人を孤立させず、差別に遭った人に手を差し伸べ、救済する窓口を整えるべきだ。社会にも差別を許さない意思を毅然(きぜん)と示し続けるべきである。
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