在沖縄米兵による性的暴行事件が沖縄県に伝えられていなかった問題で、日本政府内の通報経路だけでなく、日米間の情報共有にも不備があったことが判明した。沖縄では1995年に米兵の少女暴行事件で県民の怒りが爆発し、日米両政府は97年に事件・事故の速やかな通報で合意していたが、守られていなかった。日本政府は通報態勢を見直す方針を示すが、運用には曖昧な部分が残り、実効性に疑問符が付く。(中沢穣)
◆「日本側で迅速な対応が確保されている」と強調するが…
林芳正官房長官は11日の記者会見で「外務省が日本側捜査当局からの情報提供を踏まえ、日米間で適切にやりとりを行い、日本側関係当局による迅速な対応が確保されている」と繰り返し強調。日米間の情報共有に問題はなかったとの認識を示した。
日米両政府が97年に合意した通報手続きは「事件・事故が地域社会に及ぼす影響を最小限とするため、在日米軍に係る事件・事故の発生の情報を、日本側及び地域社会に対して正確かつ直ちに提供することが重要であると認識する」と明記している。
「通報経路の実効性の確保に努める」とも記載しているが、米側は日本側に事件を伝えなかった。昨年12月に米空軍兵が16歳未満の少女を連れ去って性的暴行を加えたとされる事件を巡っては、日本政府内での通報の不備に加え、日米間の通報手続きが全く機能していなかったことになる。
昨年12月の事件では、県への通報経路が全て機能不全に陥っていた。事件を把握した警察は外務省には伝えたが、県には通報せず。外務省は防衛省に伝えなかったため、沖縄防衛局から県に伝わる経路も閉ざされた。外務省は知らせなかった理由に「プライバシー保護」を挙げるが、新たな被害者を出さないための注意喚起の機会は失われた。
さらに、沖縄防衛局には県警からも通報がなかったことが判明。2008年に警察庁がまとめた「米軍関連犯罪捜査要領」では、米兵などによる犯罪について「(都道府県警は)防衛局などにも通報する」と定めている。10日の衆院沖縄北方問題特別委員会の理事懇談会では、政府は警察が防衛局に通報しなかったと認めたが、要領に反するかについては明言を避けた。
◆政府内の連絡経路だけ手直しして幕引き?
政府は5日から捜査当局が公表しない事件についても「可能な範囲」で県に連絡する運用を始めた。問題が発覚した日米間の情報共有態勢の見直しには手を付けず、政府内の連絡経路を改善する姿勢を示して幕引きを図る構えだ。
沖縄県議会は10日に米軍への抗議決議と日本政府への意見書を全会一致で可決した。抗議決議で「女性の尊厳と人権を踏みにじる蛮行に県民の怒りが広がっている。満身の怒りをもって抗議する」と訴えた。沖縄では昨年から今年にかけ米兵による性犯罪が5件相次いでおり、米側に及び腰な政府の対応では、県民の憤りは収まりそうにない。
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